社説

2007年11月の記事一覧


2007年11月30日

弁護士選任率高め目的果たせ

 重大事件で身柄を拘束された経済力のない少年について、家裁が公費で国選付添人として弁護士を付けることができる制度が始まった。

 新制度は家庭の資力に関係なく少年にも審判の適正な手続きを保障し、更生に向けたより適切な処遇を行うことが期待されている。

 ただ、現実には少年事件に精通した弁護士はまだ数が少なく、これまでの統計を見ても弁護士の付添人が実際に選任された割合は極めて低い。

 少年の人権保護や再犯防止が期待できるせっかくの制度だが、付添人の選任率が低ければ本来の目的が果たせなくなる可能性がある。

■人権保護で役割重要■

 少年が非行を行うと家裁で審判が開かれる。死刑、無期、2年以上の懲役・禁固などの罪に該当する重大事件では家裁は審判に検察官を出席させることができ、多くのケースで検察官が立ち会うようになった。

 こうしたことからすれば新制度で弁護側への配慮を盛り込んだことは当然であり、少年の人権を保護する上で大きな役割を果たすに違いない。

 しかし、これまでの少年事件を見てみると、私選を含め弁護士の付添人が付いたケースは少ないのが現状だ。

 2005年に審判を受けた少年のうち、少年鑑別所に送られるなど身柄を拘束されたケースは約1万5500人を数えたが、付添人が選任されたのは約4400人と3割にも満たない。

 弁護士不足、地域偏在や弁護報酬が少ないなども背景にあるようだ。しかし、これでは国選付添人制度の目的と責任を果たせるとは言えない。

 同じような事件で身柄を拘束された少年が地域の実情や家庭の資力の差だけで処遇が変わるようなことはあってはならず、付添人の選任率を高める総合的な対策が求められる。

■弁護士会早く対応を■

 日弁連がこのほど静岡県浜松市で開いた人権擁護大会でも、全面的な国選付添人制度の実現を求める決議を採択し、「少年の成長、発達を支援する付添人の存在は少年の更生にとって極めて重要」と訴えた。

 さらに新制度は始まったが、国選付添人の選任率を高めなければ、一般の事件の容疑者に適用される国選弁護制度との間で制度的に整合しない問題点も指摘されている。

 罪を犯し警察に逮捕された「容疑者」に国選弁護人を付ける制度は06年の司法制度改革から始まり、09年には大幅に対象事件が拡大される。

 この容疑者国選弁護制度が適用されるのは今のところ、裁判官3人で審理する法定合議事件に限られており、年間約8千件だ。しかし、約1年半後には弁護士なしでは法廷が開けない必要的弁護事件へと広がり、年間約10万件になる見通しだ。

 こうした制度が実施されると、容疑者の少年に警察段階では国選弁護人が選任されるのに、少年が家裁送致されたとたんに国選弁護人は解任され、弁護人がいなくなるという不都合が生まれる。弁護士なしの事件が増える。

 心身ともに未熟な少年が身柄拘束されている場合、法律の専門家がより細かく更生に向けた環境づくりをする必要がある。それができない状況は人権保護の観点からも見逃せない。

 新制度の目的が十分果たせるよう、各地の弁護士会にも選任率を高める早急な態勢づくりを求めたい。

2007年11月29日

根深い防衛利権の真相に迫れ

 商社によるゴルフ接待など疑惑が深まっていた防衛省スキャンダルが、ついに汚職事件に発展した。

 東京地検は28日、守屋武昌前防衛事務次官を収賄容疑で逮捕。同時に防衛商社「山田洋行」元専務宮崎元伸容疑者=業務上横領容疑などで逮捕=の過剰接待が賄賂(わいろ)に当たるとして贈賄の疑いで再逮捕した。

 陸上自衛隊のイラク派遣や在日米軍再編協議の実績を背景に、防衛庁は念願の「省」昇格を果たした。その最大の牽引者(けんいんしゃ)が守屋前次官だった。

 「防衛利権」の根は深い。前次官と商社元専務との癒着に終わらせず、組織「急成長」の背景と、政界疑惑に迫る真相解明に全力を挙げてほしい。

■商社とのもたれ合い■

 米中枢同時テロ以降、海上自衛隊がインド洋でテロ掃討作戦を進める米艦船などに給油し、陸上自衛隊はイラクで復興支援活動を展開した。

 航空自衛隊は今もイラクで多国籍軍向けの空輸支援を続ける。

 ミサイル防衛導入や自衛隊統合運用も経て、防衛庁は外務省と肩を並べ在日米軍再編を取り仕切るようになる。そして今年1月の「省」昇格。

 この間わずか5、6年である。あっという間に「日米安保」を担う政策官庁に押し上げられ、長年の「宿願」だった有事法制も整備された。

 だが、あまりの順風な環境変化が組織の緊張感を失う事態に、防衛庁幹部たちは懸念を抱いていたという。

 前次官の逮捕は、それらの不安と恐れが一気に噴き出した感がある。

 今回の事件では、装備品調達で防衛省と海外メーカーを仲介する商社とのもたれ合いが焦点になった。

 海外の情報を集め、煩雑な輸入手続きも引き受ける。同盟強化で、米軍と自衛隊の間で装備品の互換性が重視され、商社は活発に動いている。

■天下りの放置も温床■

 その商社に防衛省は調達を丸投げしてきた。

 増田好平防衛事務次官は記者会見で「恥ずかしい話だが、だまされた」と述べた。今後は商社の見積書についてメーカー側に照会するとした。

 そんなこともしていなかったのかとあきれ果てる。事は税金で賄う防衛予算である。事後的なチェックは言うに及ばず、対策の強化しかない。

 それから「天下り」だ。元専務は前次官への贈賄工作に加え、防衛省からOBを積極的に受け入れ、省内に顔を広げた。防衛利権の温床になったのは間違いない。

 対策として防衛庁背任事件(1998年)を機に自衛隊法が改正され、退官後2年間は防衛省と密接な関係にある企業への再就職は禁じられた。

 だが、この天下り規制強化も関係会社でその2年間を過ごすことができるなど、抜け道だらけだ。「ざる法」の指摘もやむを得ない。

 昨年の防衛施設庁談合事件を教訓に、今年9月に発足した「防衛監察本部」は内局や自衛隊幹部を対象に、自衛隊員倫理規定で禁じられた利害関係者とのゴルフ、マージャンなどがないかを調査している。

 ただ、本部の態勢はわずか50人程度。しかも任意の聞き取りが中心では成果は多く期待できない。

 今回もまた、とりあえずの対策では地に落ちた信頼は回復できない。防衛省の改革ができなければ、「省」昇格返上の声さえ出て来かねない。

2007年11月28日

事実隠さない体質が事故防ぐ

 近年の医療技術の進歩はめざましく、私たちは以前より高度な医療行為を受けられるようになった。

 しかし一方で、急速に進歩する医療技術は複雑化しており、ミスが起きやすくなっている側面もある。大学病院などで相次いで起きた医療事故の報告は医療への信頼を揺るがしてもいる。

 医療の質を改善することにより防ぐことのできる医療事故死や後遺症をなくすことは、医師や看護師などの医療者だけでなく患者・家族、社会に共通する願いである。

 今週(25日から12月1日)は医療安全推進週間。安全、安心の社会実現へ一層の対策強化が急務だ。

■体制整備を義務づけ■

 1999年に起きた横浜市大病院の患者取り違え手術などをきっかけに医療安全への関心は高まり、その後も各地で相次いだ事故や薬害訴訟などで大きなうねりとなった。

 これを受けて厚生労働省は医療者と患者のコミュニケーションや国民の医療安全への理解を深めるため、2001年度から毎年11月25日の週を同推進週間に定め、啓発活動などを行っている。

 患者、家族の立場に立てば「病院に行けば治る。安心だ」と思いたいところだが、現実に医療には危険と不確実さがつきまとう。

 各地で報告される医療事故は、現場の努力だけでは防げない場合もある。

 病院から医師が次々とやめる最近の医療崩壊や医師の超加重労働など、医師や看護師ら個人より組織の問題に起因し安全を脅かすケースも多い。広く医療制度の検証も必要だ。

 安全の確保が遅れていたとの指摘もある医療の分野だが、今年4月の改正医療法施行ですべての医療機関に安全管理体制の整備が義務づけられるなど取り組みは徐々に進んでいる。

■立ち入り調査で指導■

 県の医療薬務課によると、保健所などで実施している県内医療機関への立ち入り調査について、今回の医療法改正で医療安全が重点項目に加わった。

 ここでは医療安全に関する委員会の組織化や院内感染防止、医薬品、医療機器の安全管理を重点項目として指導しているという。改正法では罰則規定はないが、「粘り強く指導を徹底する」という。医療機関には法の趣旨をしっかり受け止めてもらいたい。

 また、医療安全対策ではさらに一歩進めて、事故調査と被害者救済の制度をつくる段階にきている。

 厚労省の検討会が先月、「診療行為に関連した死亡の原因究明」の素案として医療機関に届け出を義務づける医療事故調査委員会設置案を決めた。

 医療機関による調査を活用しつつ公正さ、透明性をもった専門家による調査委員会を早急に創設すべきだ。

 医療事故を防ぎ、医療に対する信頼を高めるには、患者側に十分な情報提供がなされる体制整備も重要だ。

 県医療薬務課では一昨年34件、昨年27件の医療内容に関する苦情を受け付けた。同課は医療に関する専門知識が乏しく、弱い立場の患者・家族が医療機関の説明をしっかり受けられるよう仲介などしているという。

 医療者と患者は「医療に間違いはない」という神話から決別して、事実の追求と事故対策に向き合う必要があり、こうした行政の支援も不可欠だ。

 そして何よりも医療界には事実を隠さない体質を堅持するよう求めたい。

2007年11月27日

物価への波及に警戒怠りなく

 原油価格の高騰が県内でも影響を及ぼし始めた。経済の冷え込みが心配されるが、勢いは衰えそうもない。

 元凶は、世界的な投機筋や機関投資家が運用する資金が原油市場に流入、価格を煽(あお)っているためだ。またたく間に原油100ドル時代の到来である。

 ニューヨーク・マーカンタイル取引所の原油先物相場は、指標となる米国産標準油種(WTI)の史上最高値更新が止まらず、今年1月の月間平均1バレル=54・14ドルからほぼ2倍の水準に高騰している。

 巨額の投資マネーは原油市場から金や商品先物市場にも波及し、価格高騰を招いている。この勢いが物価全体を押し上げる動きに警戒が必要だ。

■マネーマーケット化■

 原油価格の推移を見るとここ数年、高値更新の相場展開が続いている。

 WTI先物価格は2004年10月に55ドル台に高騰し、同年2月時点の安値から7割も上昇した。

 米国や、中国などアジアの新興市場国経済の高成長に牽引(けんいん)され、石油消費が増大したことが背景にある。

 さらに05年は、米南東部を襲ったハリケーン被害により米国の石油製品供給量が落ち込み、70ドルを突破。

 06年は、中東情勢の悪化など「地政学的リスク」に対する懸念の強まりで78ドル台の高値を付けた。

 もともと原油相場は、需給要因という実需面よりは、思惑が交錯する投機的な要因での価格変動が大きい。

 今回の価格高騰は、石油関係者が投機的な動きに出たというより、市場自体が「マネーマーケット」化しているからだ。

 米国でのサブプライムローン問題をきっかけに金融・資本市場の不安定な状態が継続。ファンドなどの投資資金は信用リスクの小さい商品市場などへと運用先を移行させている。

■デフレ要因への恐れ■

 特に金融市場の信用収縮を回避する政策として、米通貨当局が金利の引き下げを続けていることがドル安を招いた主な要因とみられる。

 ここから発生した資産の目減りを取り戻すために、産油国のオイルマネーを運用するファンドなどの投資マネーが原油市場に流入しているのだ。

 産油国は原油高で収入が膨らみ、同時に原油市場での投資で利益を得ている。また米国の利下げによってドル資金の調達が容易になり、世界的なカネ余り現象をもたらしている。
 それだけに原油高に当面、歯止めがかかりにくい状況にある。

 日本が輸入している原油は約9割が中東原油で、WTI価格より5―10ドル程度下回るが、次第に石油製品価格へ転嫁されるのは避けられない。

 全国のレギュラーガソリンの平均小売価格は1リットル当たり150円を突破、灯油も最高値を付けている。電力、ガスの値上げも予定され、暖房シーズンを迎えて家計への影響も大きい。

 原油価格高騰の影響から穀物相場が上昇し、既に食用油、マヨネーズ、パン、即席めんなど生活必需品の値上げが相次いで発表されている。

 原油高が一段高となり、広い範囲で物価に波及していく懸念は強い。

 原油高騰による原材料価格の上昇はコストを製品価格へ転嫁しにくい中小企業にも経営の圧迫要因となる。

 インフレだけでなく、景気の足を引っ張るデフレの要因となるだけに、米国経済の信認回復が急務だ。

2007年11月25日

抜本改革への道筋が見えない

 消費税をめぐる増税論議がかまびすしい中、政府税制調査会が福田康夫首相に提出する2008年度税制改正の答申案がまとまった。

 焦点の消費税について、社会保障の安定的財源として「重要な役割を果たすべきだ」と明記。09年度に基礎年金の国庫負担引き上げを控え、税率引き上げの必要性を打ち出した。

 政府税調が答申で消費税に言及したのは3年ぶりだ。だが、実施時期や税率については明示せず、政府が適切に判断するよう求めている。

 政府が示した抜本的税制改革の先送りを事実上追認する形であり、答申の存在意義に疑問を投げかける。

総選挙絡みで及び腰

 消費税率の引き上げ問題で首相は既に、08年度の税制改正では行わない考えを表明している。

 衆院の解散・総選挙が視野に入っている政治状況下で、「増税」を具体的に打ち出すことは避けたいとする政治的配慮があるのだろう。

 だが、そのために答申の中身が及び腰になっている印象は否めない。

 政府税調は昨年、当時の安倍晋三首相から、税体系全体の在り方について検討するよう諮問を受けた。中長期的な視点から総合的な税制改革を推進する方策についてである。

 特に将来世代に負担の先送りを回避し、歳出削減だけでは対応できない社会保障や少子化などに伴う負担増への「安定的財源」について、具体的に道筋を示すことを求められていた。

 だが答申案では、税制改革の課題として社会保障の安定財源の確保、格差社会問題など、中長期的な視野で税体系の抜本的見直しが求められるという「理念」を打ち出しただけで、具体的な方向性は見えない。

軽減税率踏み込まず

 確かに消費税は税収として安定的である。貯蓄や投資を含む経済活動に与える歪(ゆが)みも小さく、社会保障財源として中核的な役割を求める声は強い。

 今後、社会保障財源として目的税とすることも選択肢の一つだろう。

 ただ、消費税を社会保障関係費とのバーターでとらえるのであれば、歳出・歳入を一体的に示す必要がある。答申案にはその議論の跡が見えない。

 経済財政諮問会議では、現在の医療・介護の給付を維持するには2025年には11―17%へ消費税率を引き上げる必要があると試算している。

 こうした極端な試算ではなくとも、行政サービスと負担の在り方の議論を明確にしてほしかった。

 さらに、税率引き上げの際に課題となる食料品などへの軽減税率導入などについては「検討課題」と指摘するにとどめている。とても税制の抜本改革に踏み込んでいるとはいえない。

 一方所得税について、専業主婦の配偶者控除や特定扶養控除を廃止の方向で見直し、退職金の課税強化、相続税の増税などを求めている。

 所得格差是正という名目だが、課税対象者が多い中堅サラリーマン層にとっては大増税になりかねない。国民の理解が得られるとは思えない。

 政府税調の形骸化(けいがいか)が指摘されて久しい。政治的な事情におもねることがあれば、その不信感はさらに増す。

 国民生活の向上と経済の成長力を高め、世代間や所得間、国際的な不公平を是正する税制の在り方を追求する具体的な方向を示さない限り、政府税調の存在意義が問われることになる。

2007年11月24日

広域連携を資源発掘に生かせ

 韓国岳や高千穂峰、新燃岳など本県と鹿児島の県境に連なる霧島連山は、世界に誇る貴重な自然環境を有するとともに両県にとって重要な観光資源にもなっている。

 この霧島連山を囲む両県の5市2町が県境を越えて連携し、地域活性化を図る「環霧島会議」が発足した。

 観光振興や産業振興など自治体間の競争が激しさを増す中、「霧島山」をキーワードにそれぞれの自治体が抱える共通の課題に取り組む全国的にも珍しい広域行政を目指す。

 行政上の障壁ともなる県境を逆に広域連携の橋渡し役として、単独では困難な施策や事業に生かす新たな発想に注目したい。

■地域活性化へ“協働”■

 同会議は本県の都城、小林、えびの市、高原町と鹿児島県の霧島、曽於市、湧水町の各首長と議会議長で組織し、域内の総人口は約43万人だ。

 7市町の住民らは日本最初の国立公園「霧島屋久国立公園」の霧島の山々をふるさとの山ととらえ、同じ旧薩摩藩の地域として言葉や文化、歴史的にも深いつながりがある。

 それだけに行政区域の枠にとらわれず住民らが交流、結束する素地は古くからできていた。

 今回、鹿児島県霧島市が地域活性化に向け協働する“大連合”を呼びかけ、ほかの6自治体が共鳴した。

 霧島市で開かれた第1回会議では、各首長、議長らが将来にわたり連携していくことを確認。「環霧島会議宣言」も採択した。

 具体的な取り組みは今後詰めていくことになるが、新たなスタイルで南九州を広く発信する第一歩を踏み出した意義は大きい。単なる親睦しんぼく、交流組織に終わらせてはならない。

 そのためにはまず、各自治体がそれぞれ抱える課題を検証し、互いに実情を知り合うことが大切だ。

■周遊型観光売り出せ■

 初会合では、取り組むべき多彩なテーマが各市町から示された。

 中でも観光振興への各自治体の期待は大きく、手始めの取り組みとして共通の観光マップ作製が提案された。

 霧島連山周辺には良質の温泉が点在し、神話・伝説にまつわる観光施設も各自治体が多くもっている。観光客を周遊させる施策は広域行政ならではの強みで、効果が期待できそうだ。

 また、周遊型観光としてはJRとの連携もある。肥薩線、吉都線、日豊線は都城や吉松、隼人の各駅でつながり霧島連山を取り巻くように走る。観光地と“周遊鉄道”を結びつけたPRもアイデアとして浮かぶ。

 農林、畜産など共通する産業の振興を訴える提案もあった。基幹産業への支援を国や県に対して連携して求めれば大きな力になるだろう。

 このほか、霧島火山に対する防災対策の必要性も示された。

 いずれも重要で取り組むべきテーマだ。ただ自治体間で財政規模や諸施策の進行状況に格差があるのも事実だ。今後の活動で実効性を挙げるためにはまず、現実的に取り組める課題を絞り込むことが重要になる。

 同会議は現在、各自治体の担当者による事務レベルの運営委員会立ち上げを準備中という。各自治体内でも部署を超えた活発な議論を進めてほしい。

 次回会議は都城市で来年5月に開かれる。知恵を絞り合い、さらに踏み込んだ論議ができることを期待したい。

2007年11月23日

テロ対策論議へ疑惑解明急げ
 福田康夫首相は民主党の小沢一郎代表ら与野党の党首と個別に会談し、今国会の焦点である対テロ新法案成立への協力を要請した。

 しかし、野党側はそろって法案に反対している。28日から参院で審議には入るが、来月15日までの会期内成立は困難な情勢となった。

 首相が「ねじれ国会」による審議の停滞を打破しようと積極的に話し合いを求めた姿勢は理解できる。

 ただし、新法案に関しては積み残された疑問や防衛省、政治家をめぐる疑惑の解明が進んでいない。ただ法案成立を急ぐのではなく、政府は疑問点を説明し尽くす努力が必要だ。

民主も早く対案示せ

 民主党との会談で首相は、新法案と社会保障問題での協議機関の設置と、自衛隊海外派遣の恒久法に関する協議の開始も呼びかけたが小沢代表は「国会で議論する」として応じなかった。

 政府、与党は法案成立が厳しい状況で国会の再延長を検討する方向だ。しかし、再延長になれば衆院解散・総選挙含みの政局にもつながる。

 そうなれば重要な国の政策課題の議論がまた先送りされることになる。今回の党首会談はそうしたことを踏まえ、事前にあらゆる手だてを尽くそうとの狙いもあっただろう。

 法案成立になお強い意欲を示す首相は今後も粘り強く野党との対話姿勢を続ける構えだ。そうであればインド洋での給油活動の有効性やイラク戦争への燃料転用疑惑、防衛省がらみの疑惑など野党の追及に誠実に対応する姿勢も同時に持たなければならない。

 ただ、野党第一党の民主党にも求めたい。テロ対策について貢献策は検討しているが、正式な提案をしていない。疑惑追及ばかりに固執せず対案を示し、議論を進める努力もすべきだ。

政治家の疑惑深まる

 まもなく始まる参院での審議では、新法案の是非にとどまらず、今後の日本のテロ対策における国際貢献の在り方をしっかり議論してほしい。

 まず、新法案に関する根本的な問題として海上自衛隊の給油活動がアフガニスタンの安定、テロ根絶に本当に役立っているかという点だ。

 アフガンの治安はここに来て再び悪化していると伝えられる。新法案は活動の中身を海上での給油・給水に限定しているが、本来の目的であるはずのアフガンの安定、復興に貢献できる別の活動を模索してもいいはずだ。

 また、新法案で削除された自衛隊派遣の国会承認は文民統制にかかわる重要な問題だ。政府は修正に含みを持たせており、じっくり詰めるべきだ。

 さらに守屋武昌前防衛事務次官と防衛商社との癒着で浮上した防衛行政をめぐる利権疑惑は放置できない。

 防衛行政への信頼は地に落ちた。疑惑の真相解明が進まないままの政策論議はありえない。なのに疑惑解明どころか、証人喚問では額賀福志郎財務相、久間章生元防衛相の実名が出るなど拡大するばかりだ。

 野党は参院審議でも前次官とともに政治家の関与を追及する構えだ。

 額賀氏は防衛商社からの接待を否定しているが、説明は変わっており疑惑が解消されたとは言い難い。

 党首会談で野党からの歩み寄りは得られなかった。本人も含め政府は多くの疑問、疑惑にきちんと区切りをつけなければ、実質的な議論が進まないことをあらためて自覚すべきだ。

2007年11月22日

地域統合への実効性問われる

 東南アジア諸国連合(ASEAN・10カ国加盟)が、創設以来40年を機に画期的な一歩を踏み出した。

 シンガポールで開いたASEAN首脳会議で地域統合の推進に向けた「ASEAN憲章」に署名、価値観を共有する新たな段階に入ったからだ。

 ASEANは法的根拠となる基本法を持たなかったため、国際法上は任意団体扱いだった。国連などでも正式な議席は与えられていなかった。

 今回の憲章により地域機構としての仕組みは整えたが、加盟国の置かれた状況は決して一様ではない。

 国際社会での地位向上を図り、統合に実効性ある態勢づくりが急務だ。

■ミャンマー問題紛糾■

 中国やインドの台頭により、アジア地域は以前に増して激変している。

 そうした中で、ASEANへの期待がかかるのは、一層の統合強化・連携を通じて、地域の安定と経済発展に重要な役割を担う機構としての存在感を発揮することである。

 だが、ASEANは早くも存在価値を問われる難題に直面した。

 民主化弾圧のミャンマー問題で会議は紛糾、ガンバリ国連特別顧問(ミャンマー問題担当)の首脳会議出席はミャンマーの反対で結局、実現しなかったためだ。

 国際社会の批判にもかかわらず民主化にほど遠いミャンマーの存在は、ASEANの将来にとっても懸念材料になることは避けられない。

 憲章は民主主義の強化、人権と基本的自由の擁護を目的に明記した。また加盟国の独立、主権、内政不干渉も確認し、協議と合意に基づく運営の基本原則なども盛り込んでいる。

 ASEANは欧州連合(EU)をモデルにしていたが、加盟国を束ねる共通の理念が明確でないと指摘されていた。その中で有識者会議の提言を経て署名に到達したことは評価したい。

■「人権」の共有に意義■

 特に政治体制がさまざまで国情の異なる加盟国を抱えながら、人権尊重の立場から「人権問題」を扱う組織の設立を盛り込んだ意義は大きい。

 だが、ミャンマー問題での対応ではすぐにその実効性が問われる。全会一致の原則は堅持しつつ、人権の理念をいかに貫くのか、見守りたい。

 加盟各国は1年後の発効に向け批准作業を進める。首脳会議では2015年までの経済共同体創設を目指して実行計画(ブループリント)を承認。

 さらに来年バンコクで開催の次期首脳会議までに、安全保障共同体創設への実行計画を起草していくことを確認し、一連の地域統合プランへの道筋を明確にした。

 ASEANは「地域ネットワークとしての触媒役」を自認し、東アジアに多国間の協議機構を持たない日本、中国などに対話の場を供してきた。

 重層的な地域間対話の場を確保しながら、個別の問題で縦横に折衝を繰り広げていくことこそ、信頼醸成と安全保障に寄与する。ASEANはその経験を積み重ねてきているはずだ。

 一方のEUは発足50年の今年、統合強化に向け新基本条約を定めた。  今日の姿があるのは、第二次世界大戦後の「非戦の誓い」を軸に試行錯誤を重ねた末の到達点なのである。

 民主化などの価値観を共有した意義を現実にどう生かしていくか。ASEANの新たな一歩は、日本のアジア外交にも影響を与えずにはいない。

2007年11月21日

実効性に疑問残る候補者選考

 自民党県連(坂元裕一会長)が導入に向け、議論を重ねてきた国政選挙候補者の公募制規約案がまとまった。

 候補者は、衆参いずれも、現職を含め一般公募する。党籍の有無は関係ない。党員の代表者などで候補者を選ぶ選考委員会を設けるが、その委員も投票で党員が選ぶなど思い切った案だ。

 今年1月の県知事選、7月の参院選と惨敗が相次いだ。その背後には、依然として県連内の覇権、派閥争いが見え隠れした。

 今回打ち出された公募制が、長年のしがらみに楔(くさび)を打ち込むことができるか、今後の動きに目が離せない。

■分裂選挙で組織混乱■

 県連によると、県内の自民党員は約1万5千人、ここ2年で約2千人減少しているという。郵政民営化が焦点となった前回の衆院選で、離党した2人の国会議員(当時)を支持する党員が離れた。さらに今年の2つの選挙は事実上の党分裂選挙となってしまったことで、県連内部の混乱に拍車が掛かった。

 組織の存在意義が厳しく問われ、風通しのいい組織づくり、信頼回復が急務となっている。

 案では衆院選の場合、各選挙区で選考委員を70人以内(参院の場合150人以内)、選挙や総会などを経て選出。選考委員会では候補者に一次審査で面接、小論文を課し3人程度に絞り込んだ後、スピーチや質疑応答などで1人を決め、県連推薦候補として党本部に公認申請する仕組みという。

 公募制規約案は各地区ブロック会議や議員総会などを経て12月の総務会で確認、来年春の県連定期大会に諮られる。

 導入が決まれば、日程の関係で来年6月以降、解散・総選挙となった場合、初めて実施される。

■導入に高いハードル■

 公募制が一種の刺激剤であることは間違いない。導入の意義、背景を県連は「時代は早急な改革を求めている。そのとき、いつまでも反目の歴史、負の遺産を引きずっている訳にはいかない。透明性も高めたい」と説明する。

 しかし導入までのハードルは相当に高い、といわざるを得ない。

 現在、党本部の方針は「現職優先」である。次期衆院選は県内の3区とも現職議員がいる。県連がいくら公募制を打ち出しても、実効性には、はなはだ疑問も残る。既に現職議員側は「相談もなく拙速すぎる」と反発、不快感を隠さない。 

 県連幹部と懇談した党の古賀誠選対委員長も公募制について「よく打ち合わせをしながら、いい方向に落ち着かなければいけない」と県連の立場に一定の理解は示すが、すんなり了承とはいかないことを示唆している。

 衆院には付きものの、突然の解散になった場合、果たして公募などしている余裕があるのかなど、基本的に解決しなければならない課題も山積している。公募制議論自体が、新たな火種になりかねないと危惧(きぐ)する声も聞こえてくる。その時々で「現職優先」と「公募制」を使い分ける、ダブルスタンダードになる可能性があると、早くも着地点を予想する声もある。

 政権政党の組織が、いったん口にした改革である。党員ばかりでなく県民も注視している。敗戦続きに苦悩する組織の窮余の一策、単なるパフォーマンスに終わるのだけは許されない。

2007年11月20日

税財政の言及少なく迫力不足

 地方には、小泉内閣の三位一体改革による挫折感が強く、分権改革論議にかつての熱気や勢いが見られない。

 もちろんそれでいいわけはない。本県の東国原英夫知事の登場によって活性化した県政改革も、最終的には「分権」によって実質化されるものだ。

 こうした中で、第二期地方分権改革を審議している地方分権改革推進委員会がまとめた中間報告は、停滞した改革へのアクセル役の期待がかかる。

 だが、改革への方向は見えるものの実現への熱意や迫力はいま一つの感が否めない。地方の声を吸い上げ、より切実な勧告にしなければならない。

■省庁の義務付け緩和■

 地方の関心が高い税財政改革では、現在国六、地方四の税源配分割合を、「五対五」とする方向を示した。

 ただ、これまでの審議は権限移譲、地方出先機関見直しに多くの時間を消費。税財政については全国知事会など地方六団体の意見を聞いたものの突っ込んだ論議になっておらず、あっさりした内容にとどまっている。

 自立した「地方政府」の確立には、必要な財源を自前で確保できることが不可欠なのは言うまでもない。

 税収格差を含む税財政改革でも、今後地方の期待に応える審議と勧告を求めたい。

 三位一体改革では、中央省庁が財源と権限を握るだけでなく、法令によってこまごました基準で義務付けや枠付けをして、地方の裁量を奪っていることが明らかになった。

 こうした問題の是正策として、分権改革委員会は義務付け・枠付けを認める場合の判断基準をつくった。

 私有財産制度や法人制度の根幹にかかわる事務など七項目の基準を示し、それ以外は義務付け・枠付けの廃止や自治体の条例に委任するとした。

■住民自治重視の姿勢■

 権限移譲では、医療や義務教育など七つの重点分野で大幅な権限移譲を勧告する考えを示した。

 例えば医療分野では、深刻な医師不足や医療費適正化の課題克服に向け、地域の実態を把握している都道府県が主体的な役割を担うとしている。

 国道の維持管理や、一つの都道府県にしか流れない一級河川の管理を都道府県に移譲することなど、長年の懸案事項も列挙している。

 中でも目新しいのは地域再生を取り上げたことだ。

 中心市街地の衰退対策や、集落維持が困難な「限界集落」の対策として、地域の創意工夫を生かした「まちづくり」の必要性を強調した。

 人口減少や超高齢化、経済社会の急激な変動への対応は行政による「団体自治」だけでなく、住民による「住民自治」を重視する姿勢である。

 幅広い配慮を示している報告だが、税財政に関しての言及はあまり多くない。国と地方の税源配分では「地方から主張されている五対五を念頭に置くことが現実的な選択となっている」など、持って回った表現は弱い。

 東京と地方で顕著な財政力格差の解消に取り組む姿勢も示したが、地方交付税制度を含めて、何をどのように改革しようとするのか見えにくい。

 この背景には、委員に地方財政の専門家がいないためと思われる。

 財政の分権は、第一次分権改革以来最大の「未完の改革」である。地方財政学者を専門委員に招くなどして、早急に勧告への態勢を整えてほしい。

2007年11月18日

照葉樹林の復元100年計画の核
 綾町周辺に広がる国内最大級の照葉樹林のうち特に原生林が多い約1167ヘクタールが、来年3月末までに世界自然遺産の屋久島や白神山地、知床と同じように、国の保護林としては最も規制が強い「森林生態系保護地域」に指定される見通しとなった。

 九州では屋久島、沖縄・西表島などに続き五カ所目となる。綾の森では伐採の危機もあり、送電線鉄塔建設などもあった。町民と綾の森を愛する人たちの長年の努力が実った朗報だ。

貴重な動植物の宝庫

 町内の約8割が森林という綾町は戦後、林業の衰退に伴い次々と町民が町を出た。「夜逃げの町」とまでやゆされた。この苦しい時期に国有林の一部の照葉樹林伐採計画が持ち上がった。それを阻止したのは1966(昭和41)年に町長に就任した故郷田實氏だった。綾の森は辛うじて残され、綾町は照葉樹林都市として日本中に知られる町になった。

 保護地域指定で保護されるのは、森林だけでなく動植物も含まれる。環境省レッドデータブックで絶滅危惧きぐ種に指定されているイヌワシやクマタカ、九州ではここだけ生息が確認されたクロホオヒゲコウモリ、南九州と米国テキサス州だけに発生する世界的珍菌のキリノミタケなど多様で豊かな生態系は、魅力に満ちている。

 森林生態系保護地域は、日本の代表的原生林の保護が目的で規制は厳しい。綾の場合、樹齢300年を超える巨木のイチイガシやイスノキなどの森が広がる674ヘクタールが「保存地区」(コアエリア)で、学術研究や山火事など非常災害の場合を除いて人の手を加えることはできない。山菜採取、キャンプなど一般の利用も制限される。

日本文化の起源の森

 コアエリア周辺の残りの493ヘクタールは「保全利用地区」(バッファゾーン)としてコアエリアを保護する緩衝帯の役目を果たす。人工林を間伐することで徐々に天然林を復元しながら、この一帯は森林教育やレクリエーションなどに活用される。

 県内では1990年に指定された祖母山・傾山・大崩山周辺に次いで2カ所目、全国で29カ所目となる。

 九州森林管理局(熊本市)、県、綾町、日本自然保護協会、市民団体「てるはの森の会」の5者は、一昨年5月から国有林のほか県・町有林を含む約1万ヘクタールを対象に100年計画でかつて広がっていた照葉樹林を復元しようと「綾の照葉樹林プロジェクト」を推進。プロジェクトの中核として「森林生態系保護地域」の指定も求めてきた。今回の指定は、今後の復元への核(コア)として大きな意味を持つ。

 綾の森での具体的な実践活動も次第に広がりを見せ始めている。特定非営利活動法人「宮崎文化本舗」は昨年度まで3年間、「照葉樹林の回廊構想啓発事業」として、綾町周辺で照葉樹林に関するシンポジウムや体験講座の開催、ガイドブック作製、ガイドボランティアの養成などを進めてきた。

 一方、県民全体を見渡したとき、どれほどの人が照葉樹林の価値を認識し、親しんできただろうか。今後の活動資金のめどや官民がどうやって足並みをそろえていくのか課題は多い。

 照葉樹林はお茶や納豆など日本文化の起源の森ともいわれている。最近では森の“癒やし効果”も高く評価されている。森林の持つ多様な機能を生かした取り組みを積極的に進めたい。

2007年11月17日

数字に表れない苦しみに迫れ

 昨年度に全国の国公私立の小中高校が認知したいじめの件数が12万5千件と前年の六倍に達したことが、文部科学省の調査で分かった。

 昨年、いじめによる自殺が相次いだのを受けて、被害者の気持ちを重視した調査方法に変えた結果である。

 県内でも県教委がいじめの定義から「一方的」「継続的」などの条件を削除した結果、全体で前年度の約13・5倍の664件となった。

 調査のやり方次第で件数は大きく変わり、いじめの実態がいかに深刻であるか裏付けた結果でもある。数字に表れていない多くの子どもの苦しみ、悩みに迫る対策が急務だ。

■「定義」緩め大幅増加■

 今回の文科省調査は、前年度までの「弱い者に、一方的に攻撃を加え、相手が深刻な苦痛を感じた」とした、いじめの定義を「心理的・物理的攻撃を受けたことで精神的苦痛を感じた」と大幅に緩めた。
 子どもに対するアンケート調査などの活用も強調された。実際にいじめかどうかは当の本人でなければ分からないことが多い。子どもの声を重視した点は評価できる。

 今回の調査でいじめ件数が一気に跳ね上がった。より実態に近づけただろうが、数字以上にある深層の現実を忘れてはならない。

 実際、全国の都道府県の調査では方法や定義にばらつきがあり、件数には相当な開きが出た。例えば熊本県の場合は、件数が実に前年度の125倍という結果がある。

 調査のやり方次第でこうも件数が変わること自体、いじめが根深くあるということだ。いじめはない方がいいに決まっているが、「あって当たり前」と考えた上で子どもと向き合うことの方が現実的な対応といえる。

■見つける」に力点を■


 文科省はいじめが社会問題化した1985年度に全国調査を開始。その後、定義を変えるなどして件数の大きな増減を繰り返してきた。

 2003年の中央教育審議会の答申で、いじめ、校内暴力について「5年間で半減」という数値目標を掲げていた。当然、いじめが少ないほど学校や教師の評価につながる。結局、見て見ぬふりやいじめ隠しが横行し、被害を受けた子どもや家族が苦しんだ例は多い。

 文科省や教育委員会のいじめ対策が件数減らしだけにこだわり過ぎた反省点だろう。教育現場では一人一人の子どもに向き合い、少しでもいじめや、いじめにつながる状況を見つけだすことに力点を置くべきだ。

 今回の調査で、いじめ発見のきっかけについて、教師が発見した割合は以前に比べ低くなった。子ども自身からの訴えで分かることも減っている。

 一方でいじめ発見に至るケースとして増えているのがアンケート調査によるものだという。教師と子どもの微妙な距離感を象徴している。

 いじめの「早期発見、早期対応」といっても子どもの心が見えなければ対応のしようもない。日ごろから子どもと深くふれあう中で、心の動きやその子どもの人間関係の変化などに気づくことができる。

 現場の教師の過酷な勤務実態の改善や教師自身の眼力を高める研修の充実などが図られるべきである。

 真のいじめ対策は表向きの件数を減らすことではなく、隠れたいじめを早く見つけだしてやることだ。

2007年11月16日

低年齢の少年院送致控えたい

 少年院へ送致する対象年齢を「14歳以上」から「おおむね12歳以上」とした改正少年法が施行された。

 これまで刑事責任を問えない14歳未満の「触法少年」で、児童自立支援施設に収容されていた少年らが家庭裁判所の判断で少年院に収容することができるようになった。

 国会審議の中で、「おおむね」の幅は1年程度とされているため、ケースによっては11歳の小学5年生でも少年院に入ることもあり得る。

 だが、こうした年齢層の少年らは心身の発達が未成熟で、環境もさまざまだ。少年院送致の判断は少年の将来に十分配慮し、慎重な対応が必要だ。

■処罰の範囲が広がる■

 今回の法改正は、2003―04年に長崎県で12歳の男子中学生や11歳の小学女児による殺人事件が相次いだことが契機となった。

 改正では触法少年に関する警察の強制調査権も強化されており、少年犯罪の凶悪化と低年齢化に対処するための改正だ。だが、日弁連などは「警察の権限強化や厳罰化で問題は解決しない」と反対してきた。

 これまでの議論で政府原案には少年院送致の下限年齢の撤廃や、将来罪を犯す恐れがある虞ぐ犯はん少年に対する警察の調査権までが明記されていたが、「歯止めが利かなくなる」との批判が出て削除された経緯がある。

 刑法は「14歳に満たない者の行為は罰しない」としており、処罰の対象外になっている。

 少年院送致は刑罰ではなく将来、社会生活に適応できるよう指導・訓練を受ける保護処分だが、今回の改正で実質的には少年の処罰範囲を広げる効果があることは確かである。

 特に矯正教育を受け入れる素地ができていない小学生の収容についてはできるだけ控えるべきだ。

■警察の調査権限強化■

 改正法のもう一つのポイントが触法少年の強制調査権を警察に与えたことだ。警察は従来、児童相談所に通告するための「準備」として法的根拠がないまま補導、調査をしていたが、法改正で少年らを呼び出して質問することや、家宅捜索などが可能になった。

 触法少年の疑いがある少年を見つけた警察官の任意調査権も規定された。しかし、強引な事情聴取や調査により少年らが虚偽の自白をしてしまうなどの恐れが指摘されている。

 こうしたことから法改正にあたって参院法務委員会は付帯決議で、この年齢層の少年らがこうした聴取などに誘導されやすいことを指摘。「供述が任意によるもので、正確なものとなるように配慮する」よう関係者への周知徹底を求めている。

 決議の趣旨を十分に踏まえ、警察関係者は供述を強要するなどしてはならない。また、家庭裁判所にも慎重な対応が求められる。

 警察庁は有識者の意見を求めて「触法調査マニュアル」を作成し、全国の警察本部に配布している。

 それによると、触法少年に面接する際は、時間の長さや場所などに十分配慮し、他人の目に触れないことなどを求めている。各警察現場でもマニュアルの徹底に努めてほしい。

 対象となるのは人格形成が未熟な少年である。改正法にあっても調査適用範囲を安易に広げ厳罰化に走ることなく、心の傷をしっかり受け止める教育的な配慮を欠いてはならない。

2007年11月15日

公務員の職業倫理を忘れるな

 本県でも発覚した「裏金」問題のように官公庁職員のモラル欠如に批判が高まっている折、それを助長するようなあきれた実態が明らかになった。

 会計検査院が福田康夫首相に提出した決算検査報告で451件、310億円に上る不正・不当な公金支出が指摘された。公金意識を忘れた公務員の無駄遣いは相変わらずだ。

 社会保険庁や市町村職員による年金保険料の横領が社会問題化したが、今回は特に犯罪まがいの事案が多い。

 中央、地方の官公庁職員らに法令順守の義務があるのは当然だ。だが、まずは公務員としての自覚と職業倫理を高めなければ再発は防げない。

偽造された超過勤務

 検査の対象は国会、内閣、裁判所、都道府県、市町村のほか、国が出資している政府関係機関、独立行政法人、国立大学病院、NTTなどだ。

 会計処理が適正でない場合は不当事項、処置要求事項などの指摘をし、是正を求めることになっている。

 2006年度の決算検査報告で指摘された内容には驚かされる。

 地方の労働行政を預かる都道府県労働局の22局で1999年度から06年度まで、職員自らが労働時間を偽造するあきれた実態が分かった。

 当日勤務の最後の職員が庁舎に鍵をかけて退庁し、警備会社の機械警備に移った後の時刻にも、一部の職員は超過勤務をしていたとの判定で超過勤務手当が支給されていた。不正支給は1億5900万円に上る。

 庁舎施錠後の超過勤務があるはずがない。手当支給は事実上の横領行為ともいえる。まるで「やみ給与」だ。

 さらに悪質なのは、長野労働局に検査院の実地検査が入ることを知った局長が、事務連絡で超過勤務等命令簿や機械警備記録などの関係文書廃棄を指示し、実際に廃棄されたことだ。

違約金の回収を放置

 局長命令による証拠隠滅であり、このような指摘が検査報告に記載されたのは前代未聞という。組織ぐるみの公金分捕りというしかない。

 超過勤務手当の調査は3年目になる。昨年までの調査で不当支出が指摘されているのを知りながら不正を行っていたのだから、悪質極まりない。

 当該機関には厳しい処分をしなければ国民は納得しまい。

 国庫補助金についての地方自治体の意識にも甘さがうかがえる。例えば談合被害の違約金条項だ。

 補助金で公共事業を行っている自治体は、談合で生じた損害を回復するため、「受注者は契約額の一定割合を違約金として支払わなければならない」とする条項をあらかじめ契約書に記載しておき、違約金を徴収している。

 だが、02年度から06年度までに業者らが逮捕・起訴された1859件の工事を調べたところ、23事業者の工事1314件(契約額560億円)で、補助金相当額が国庫へ返還されていないことが分かった。

 中でも長野、香川両県など2県5市では400件近い工事で違約金の請求をしておらず、国庫補助金81億円が回収不能になっている。

 回収できる債権を放ったまま、収入回復を図らないなど民間ではあり得ない。公金感覚の欠如が甚だしい。

 中央省庁も自治体も、扱っているのが国民の税金であるという意識を再度確認してほしい。放置すれば、公務員制度自体の不信に拡大しかねない。

2007年11月14日

与野党合意点探り協議尽くせ

 海上自衛隊によるインド洋での給油活動を再開するための新テロ対策特別措置法案が衆院で可決された。

 審議の舞台は野党が多数を占める参院に移されたが、とりわけ第一党の民主党の議事運営が試される。

 新法案審議は今後のわが国のテロ対策への取り組み、在るべき姿を探る重要な場である。民主党は単に反対のための審議引き延ばしをすることなく、大いに議論を尽くして国民に判断材料を示す責任がある。そのためには早期に対案を提出すべきだ。

 与党も参院否決なら即、再議決という強硬な姿勢をとらず、与野党で国際貢献策の合意点を探る努力が必要だ。

国民に選択肢を示せ

 対テロ新法案は今国会の最大の焦点だが、海上自衛隊の給油活動の是非も含めて日本のあるべき国際貢献についての議論が煮詰まらないまま衆院を通過してしまった。

 福田康夫首相は衆院での採決にあたって「国際社会が取り組む活動に参加しなくていいのか」と強調した。

 これに対して民主党は「活動は憲法違反だ」と主張しているが、日本が何らかの形で国際貢献すべきだという点は民主党も認めている。日本が今後取り組む貢献策が対立を残したまま決まってしまうことは好ましくない。

 だが現実には、民主党の小沢一郎代表は法案に反対の姿勢を明確にしている。参院での駆け引きは衆院解散・総選挙をにらんで与野党の思惑がぶつかり合う展開が予想される。

 しかし、そうした党利党略だけの国会運営を続けていれば重要な政策課題で国民に選択肢を提供できなくなり、まさに民意無視である。

 与野党とも参院審議では「言論の府」、政党としての責任をしっかり果たし活発な議論をしてほしい。

民主党も早く対案を

 今国会は会期が35日間延長された。だが民主党は審議時間は足りないと主張している。

 一方でイラクからの航空自衛隊撤退法案の審議を優先するよう求めているが、なぜ対テロ新法案より優先するのか納得できる説明も必要だろう。

 燃料転用疑惑や防衛省の不祥事の解明に取り組むことはもちろん大切だ。だが、いたずらに審議を引き延ばすのではなく一定の時間内でしっかり議論し、参院としての結論を出すべきだ。

 そのためにも民主党は早急に対案を示してほしい。民主党が議論している対案の骨子は、民生分野でのアフガニスタン復興支援に自衛隊を派遣することなどが柱で国連決議があれば給油活動も可能という。

 与党側も新法案で削除した国会承認条項を復活される修正に含みを持たせている。民主党の対案をたたき台にして互いの接点を探ることは可能だ。

 与党側にも注文しておきたい。過去に繰り返された「数の横暴」による国会運営をせず、手順を尽くすことだ。

 法案が参院で否決されれば、衆院で再議決という方法がある。確かに憲法に明記される国会ルールではある。しかし、最初から再議決ありきの姿勢では中身のある議論は期待できない。

 「ねじれ国会」という状況にあっても、それに対応した発想がほしい。衆参の両院協議会の機能を十分に発揮させるなどして与野党の合意点を見つけ、協議を尽くしてほしい。

 対決姿勢に終始するのではなく活発な議論に意を尽くすべきだ。

2007年11月13日

授業時間数増で解決できるのか

 よく考えれば分かることだが、教育を「人間形成」という観点で見るか、「学力向上」でとらえるかによって、その方法論は大きく違ってくる。

 学習指導要領の改定を進めている中央教育審議会がまとめた中間報告は、勢いを増す「ゆとり教育」批判の圧力に押され、その舵かじを「学力向上」に大きく切ったことがうかがえる。

 小中学校で主要教科の時間数や教育内容を増やす一方、現行指導要領の目玉「総合的な学習の時間」を削減。

 中学校の選択教科も大幅削減され、必修教科に置き換わることになる。

 「ゆとり教育」路線を事実上放棄する180度の方向転換に、戸惑いを覚える現場教師も少なくないはずだ。

求められる「質」改革

 現行要領の自ら学び考える「生きる力」の育成を目指すという理念は「ますます重要」とはしている。

 だが、手だてとして中教審が示した中身は、学力低下批判に押され、なし崩し的に進めてきた授業時間数、知識・技能の基礎学力重視という流れを追認しただけとしか思えない。

 情報や知識の量が無限に拡散していく時代に突入した先進国の共通した教育課題は、知識の多さより、学ぶ意欲と方法をどう育てるかにある。

 求められるのは教育の「質」の改革であり、授業時間数を増やすという処方箋せんで済むとはとても思えない。

 中間報告は、授業時間数を増やす理由を「教科において知識・技能を活用する学習を行うため」としている。
 活用を通して思考力、判断力を育てるという趣旨は理解できる。

 しかし、増やすと言っても、週当たりでみれば小学校低学年が2時間、中・高学年と中学校は1時間という限られた枠にすぎない。活用の余地がどれだけあるのか、疑問が残る。

「ゆとり教育」を転換

 中教審の基本的な考え方が、前政権から引き継がれた「ゆとり教育」批判としての「学力向上」に主眼があることははっきりしている。

 だが、学力低下は「ゆとり教育」の「結果」ではない。社会の変容による勉強に向かわない子どもたちの増大、勉強の意味が教育現場で失われたことによる「原因」なのである。

 情報が氾濫(はんらん)し、街にもメディアにも勉強以上に面白いものがあふれ、自由な個性が大事だというメッセージを送る現代社会で、どうして地味で退屈な勉強の意義を見いだせるだろう。

 そういう子どもたちの「教育からの逃走」を、授業時間数を増やすことで克服できるのだという。現場への視点がずれているとしか思えない。

 問題は、現行要領が自ら学び考える「生きる力」の育成という理念を掲げながら、なぜ生かせなかったのかという検証が不十分な点にもある。

 中間報告は、主体的な学びができなかった原因を学校の指導の在り方に帰している。だが果たしてそうか。

 自ら学ぶ力の育成という高度な目標を掲げながら、一人一人に目が届く体制でなかったというのが最大の理由だろう。主体的な学び、「生きる力」を育てられる条件にはないのである。

 小学校英語の導入、言語力強化…。今回の見直しでまた学校現場に大きな負担が加わる。だが体制は放置され、新たな課題を押しつけられて後は知らぬでは、現場は救われない。

 教育の再生と信頼を取り戻すにはもっと多角的な検証の議論が必要だ。

2007年11月11日

「廃棄」を「活用」に変え街づくり

 まるで建築のメタボリズム(新陳代謝)が思いをリレーし、時代をつないで変成していく軌跡を見るようだ。

 解体が決まっていた都城市民会館が一転、存続することになった。

 同市に南九州大学を移転する学校法人・南九州学園(宮崎市)が20年間の無償貸与を申し入れ、同市が正式に同会館の存続を決定したからだ。

 市は9月定例議会で同会館の解体工事費などを可決、来年1月に着工予定だった土壇場での「復活」である。

 市の英断を高く評価したい。

 それは公共建築物の運命を変えただけではない。当然視された老朽施設の「廃棄」を、「活用」に転換させる都市文化としての新たな価値を持つ。

■南九州大学の講堂に■

 「捨てる神あれば拾う神あり」を地でいくような経緯である。

 都城市民会館は、老朽化しているうえ新たな総合文化ホールが完成し、年間約2千万円という維持費がネックとなり今年2月、解体が決まった。

 周知のように、同会館はわが国の代表的な建築家・菊竹清訓氏の設計で1966年に開館。メタボリズムという理念を体現した日本モダニズム建築の傑作として知られている。

 だが、同市は財政難に加え、市民アンケートでも「解体」賛成が多かったことなどから存続を断念。同会館の解体は「秒読み」段階に入っていた。

 そこへ降ってわいたように出現した同学園の「救い主」である。

 同学園は、同会館が移転を予定している南九州大学で講堂として使えること、また文化的価値の高い公共建築物を保存できることなどを理由に無償貸与を申し入れ、市も承諾した。

 アスベスト除去と復旧工事は市が行い、貸与期間中は同学園が自主運営することになる。市民の中にも今回の決定を歓迎する声は多い。

■戦後の代表的建築物■

 「解体か存続か」に揺れた同会館問題が投げかけた意味は2点ある。

 一つは、市財政と「公共建築」の関係である。もとより財政が自治体運営の土台であるのは言うまでもない。

 だが、財政論のみで、つまり維持・管理ができないという理由だけで存廃が決定されれば、街の一つの風景と化し、極めて高い公共性を持った建築物の「社会的意味」が失われる。

 同会館の建設にも多額の税金が投入され、しかも40年にわたって市民文化の発信源になっていたのである。整理するにはそれなりの理由がいる。

 もう一つは、同会館の建築的価値が地元にとどまらず、戦後日本のモダニズム建築という文脈でとらえられるスケールを持っていたことだ。

 建築運動としてのメタボリズムは、「進歩」「希望」などに象徴される近代化の貪欲どんよくなエネルギーを表象している。同会館の異形いぎょうの相貌そうぼう、大空に向かってダイナミックに飛翔ひしょうするイメージはその端的な表現だった。

 戦後日本は飛躍的な発展を遂げ、主要な街並みをメタボリズム建築が飾った後に、全国で消滅の危機にあるその代表的建物が同会館だった。

 戦後の活力に満ちた時代の記憶が、同会館の風景に刻まれている。解体が惜しまれたのも当然である。

 タイムリミット寸前で「拾う神」に恵まれた幸運もあるが、これから「活用」の新たな段階に入る同会館。

 都城の都市文化が、歴史・建物・景観を取り込んだ街づくりに挑む。

2007年11月10日

国はすべての被害者救済急げ

 薬害肝炎の大阪訴訟控訴審で大阪高裁は和解を勧告した。

 全国の患者らが五地裁で争ってきた一連の訴訟で初の和解勧告。国や製薬会社も和解協議に同意している。最初の提訴から5年、解決へ向けた動きに「ほっとした。道が一歩開けた」など、原告側から安堵(あんど)の声も聞かれた。

 しかし、まだ多くの患者らに笑顔は見られない。今後示される和解骨子案を基に協議が行われるが、国と原告の間には法的責任や救済の範囲に対する認識に隔たりがあるからだ。

 一致点を見いだせるかが焦点だが、国は早期にすべての被害者を救済する視点に立ち協議に臨むべきだ。

■国の加害責任は大勢■

 薬害肝炎訴訟は、出産や手術の際に止血用として、汚染された血液製剤「フィブリノゲン」などを投与されC型肝炎ウイルスに感染したとして、全国の患者らが2002年10月から国と製薬会社を相手に東京、大阪、仙台、名古屋、福岡の五地裁で提訴した。

 この中で仙台地裁を除く4地裁は、ウイルス感染の危険性を軽視した国の法的な責任を認めた。

 このように司法判断の大勢として、ずさんな薬務行政による国の加害責任があったことがほぼ確定している。

 これらの1審敗訴にもかかわらず国が控訴を繰り返してきた背景には「一度、責任を否定した方針は変えられない」とする“役所の論理”が大きく働いたようだ。

 しかし、製薬会社の推計では1980年以降だけでフィブリノゲンは約28万人に投与され、約1万人がC型肝炎を発症したとされる。

 原告の中には症状が悪化し肝がんなどで亡くなる患者も出ている。訴訟がこれ以上長期化することは許されず、国はメンツにこだわらず患者の立場を最大限尊重した解決を急いでほしい。

■原告主張認め解決を■

 今回の和解勧告を受けて、舛添要一厚労相は歴代厚労相としては初めて原告らと面会した。ここで和解による解決に向け全力をあげる決意を伝えたが、原告らは楽観視していない。

 現時点では、原告側が求めている「法的責任を認めた謝罪」と「全員救済」について、国側には感染の時期で責任が異なるとの意見も根強い。

 国の過失責任がいつからあるかの判断を微妙にさせているのは、フィブリノゲンが承認された64年の医学水準からみて、当時知られていなかったC型肝炎ウイルスの危険性を予見するのは難しかったからだ。

 このため各地裁の判決も、国の法的責任を認める時期について見解が分かれている。だが、国はそれを盾に責任逃れをすべきではない。感染時期による法的責任を厳密に議論すると救済されない患者が出る恐れがある。

 国はまず現実にいる被害者をすべて救済することを優先すべきだ。そして薬害以外にも大勢いる肝炎患者救済と併せて医療費補助や治療の充実など恒久対策を早く講じる必要がある。

 薬害肝炎をめぐっては、厚労省が「ない」と説明していた発症者一覧表が省内に放置されていたことが発覚。その中に少なくとも12人の原告が含まれていた。このことだけをみても国が薬害を拡大させたことは明白で、責任を認め謝罪するのは当然である。

 国はこれ以上患者らを苦しめず、一刻も早く原告らの主張を受け入れた和解に応じるべきである。

2007年11月09日

今度こそ防衛利権解明へ期待

 守屋武昌前防衛事務次官への頻繁なゴルフ接待が発覚した防衛商社「山田洋行」の宮崎元伸元専務が、米国子会社から不正に約1億円を引き出したとして業務上横領容疑などで東京地検特捜部に逮捕された。

 宮崎元専務は、オーナー側との対立から山田洋行を離れ、防衛商社「日本ミライズ」を設立。その際の資金に使われたとの疑いが指摘されている。

 宮崎元専務は独立後も守屋前次官と親密な交際を続けていたことが判明しており、特捜部は接待と守屋前次官の公務との関係についても追及する。

 これを突破口に防衛利権をめぐる不正を徹底的に糾明し、政官業の不透明な構図を洗い出してほしい。

■力量問われる特捜部■

 宮崎元専務が守屋前次官に対して200回以上のゴルフ接待を行ったほか、ゴルフセットの提供、飲食、旅行接待をしていた事実はすでに判明、守屋前次官自身も先月行われた国会証人喚問で認めている。

 ただ、防衛省への自衛隊装備品納入をめぐり守屋前次官は、宮崎元専務への便宜供与については否定した。しかし、業者がそれほどの接待を繰り返すことには疑念が残り、真相を正すため参院外交防衛委員会が近く宮崎元専務へも証人喚問を予定していた。

 その証人喚問を目前にしての今回の強制捜査着手に、特捜部の疑惑解明への並々ならぬ決意がうかがえる。

 捜査の発端は、宮崎元専務が山田洋行を離れライバル社となる日本ミライズを設立したいわば内紛だ。特捜部は7月から両社幹部らへの事情聴取を進めていたという。

 宮崎元専務の逮捕容疑は業務上横領などだが、特捜部の狙いが私企業の単なる不正経理ではないことは明らかだ。この捜査を突破口に業者と政官界の闇の関係をあぶり出せるか、特捜部の捜査力も問われる。

■政官界へ切り込みを■

 山田洋行は航空、防衛産業の専門商社で自衛隊の装備などを防衛省に納入してきた。宮崎元専務は新会社設立まで同社の実権を握り、政官工作を担ってきたとされる。

 疑惑の本丸は、自衛隊の次期輸送機(CX)に搭載するエンジンの納入などの背景だろう。

 米国メーカーの販売代理店だった山田洋行が試作機用の5基(計約39億円)を受注した。ところが宮崎元専務が退職するとその販売代理権を山田洋行から新会社がもぎ取った。

 その背景に政官界のなんらかの力が働いたのでは、と疑われるのは当然だろう。宮崎元専務と守屋前次官の癒着と言ってもよい蜜月ぶりからも疑念が膨らむ。着服された1億円の使途やそれ以外の資金の流れを解明する中でその実相も浮かび上がるだろう。

 守屋前次官は宮崎元専務との関係を「友人」といい、贈収賄につながるような便宜供与を否定する。しかし、ゴルフ場では偽名を使ったことを認め、接待されることの後ろめたさ、違法性を認識していることは明白だ。

 贈収賄としての立件には、趣旨の特定などで難しいとされるが、特捜部は宮崎元専務によるほかの利益供与など洗い出し立件を目指すことになる。

 また、守屋前次官への接待の場に防衛庁長官経験者の同席も明らかになっている。特捜部は政官界への切り込みが腰砕けにならないよう徹底捜査を行い国民の期待に応えてほしい。

2007年11月08日

大連立放棄し政権交代目指せ

 民主党の混乱が、小沢一郎代表の続投決定でひとまず収拾されそうな中で見えてきたことがある。

 一つは、今回の騒動の発端となった福田康夫首相との2回にわたる党首会談とそこで交わされた「大連立」問題が、密室で行われていただけに情報戦の様相を呈していたことだ。

 もう一つは、2大政党制の下で与党との連立を含めて政策の実現を図りたい小沢氏と、あくまで衆院選勝利を前提とする党内の支配的な政権戦略とに距離のあったことである。

 小沢氏の続投を党内の大勢は歓迎している。だが、今回の騒ぎで民主党に対する国民の信頼は大きく揺らいだ。その回復の道は極めて厳しい。

■政権戦略めぐる違い■

 小沢氏は数日来の民主党執行部の慰留を受け入れ、7日の両院議員懇談会で代表続投が正式に決まった。

 もともと小沢氏の辞意表明のきっかけになったのは、民主党の掲げる政策をどう実現するかという、政権戦略をめぐる方法論の違いだった。

 同日の懇談会や記者会見で小沢氏は「連立は視野に入れず、政権交代を実現するため全力で次の総選挙での勝利を目指す」と明言。「大連立」をめぐる批判の沈静化を図った。

 だが、小沢氏の発言でも明らかなように、「大連立」構想は「ある人物」を介して小沢氏にもたらされ、民主党の協力を得たい福田首相との党首会談で交わされたテーマである。

 「大連立」にしろ部分連合にしろ、与党との政策協議によって実績を示すことが政権実現の選択肢の一つだと考えた小沢氏の連立志向を、党内で完全に払拭(ふっしょく)するのは難しいだろう。

 小沢氏に対する党内の不信感は依然としてくすぶっており、今後の小沢氏の党運営は決して容易ではない。

■情報戦で騒動が増幅■

 一方の当事者である福田首相からの説明がない中では断定できないが、今回の「大連立」騒動には明らかに情報戦で増幅した側面が否めない。

 一部報道によれば、「大連立」を提案したのは小沢氏であり、党首会談では連立による閣内協力の数まで具体的に話し合われたとされている。

 夏の参院選の自民惨敗以来、「ねじれ国会」による政治的停滞を憂える動きがあったのは間違いなかろう。

 だが、少なくとも小沢氏の説明によれば、連立を切望していたのは「状況を打開したい」政権側である。そのための福田首相の提案が、歴代の自民党政権では考えられなかった安全保障上の重大な政策転換だった。

 もちろんその提案が自民党内ですんなり了承されるわけはなかった。それに乗った小沢氏の判断は役員会で拒否されたが、「大連立」構想が単純な与党との合流であったはずはない。

 ただ、小沢氏の「壊し屋」的言動が党内の疑心暗鬼、不信感をもたらしたことも事実だ。小沢氏自身の説明不足もあって、党内の「大連立」恐怖症は実態以上に膨張した面がある。

 問題の沈静化は、小沢氏の代表続投だけでは片づかない。一時的に結束を確認しても、党内に走った深い亀裂を修復するのは並大抵ではなかろう。

 先の参院選が示した民意と国民の期待は、民主党が自民党政権に変わりうる一方の勢力となることである。

 その原則を忘れ、連立の甘い蜜(みつ)を吸うことがいかに重い代償を払うか、小沢氏は肝に銘じなければならない。

2007年11月07日

6割占める「再犯」対策が急務

 戦後の刑事裁判で昨年までに有罪判決が確定した100万人を抽出し調査した結果、件数の6割近くが再犯だったことが、法務省がまとめた2007年版犯罪白書で分かった。

 白書によると、初犯時に若い人ほど再犯傾向が強いことも判明。「犯罪の要因を解明し、継続的な対策を行う必要がある」としている。

 再犯者による犯罪件数は初犯者によるものよりも格段に多く、社会の安全に多大な脅威になっているという。

 安全な社会づくりには再犯防止対策が不可欠で、若年者の犯罪の芽を早期に摘むことや犯罪者の更生のための教育、支援の充実が必要だ。

■凶悪化、巧妙化が深刻■

 白書によると、06年の刑法犯は287万件で4年連続で減少。戦後最悪だった02年の369万件に比べると2割も減少した。

 法務省は最も件数の多い窃盗が景気の回復傾向や各地の地域防犯活動が強化され、減少した結果とみている。

 ただもちろん楽観はできない。子どもや高齢者らが被害に遭う犯罪の凶悪化、巧妙化は最近の全国各地で発生する事件からみてとれ、深刻だ。

 さらに、犯罪全体の件数も依然高い水準にあるといえる。気を緩めることなく犯罪防止対策を考え、実行しなければならない。

 中でも、白書が重要な課題と位置付け、特集しているのが再犯者対策だ。

 検察庁の犯罪歴のデータなどを基に戦後、有罪確定した100万人と再犯者50万人を抽出、再犯の全体像や傾向の変化などを調査している。

 犯罪者全体のうち初犯者が約71%を占め、再犯者は約29%にとどまるのに、犯罪数の約58%は再犯者による。つまり3割の再犯者が6割の犯罪を行っていることになり、再犯対策が犯罪防止の上で確かに重要である。

■就職や生活指導重要■

 白書が示している効果的な犯罪防止対策の中でも注目したいのが、起訴猶予や執行猶予など適正な科刑を実現するための裁判実務の運用での指摘だ。

 例えば窃盗事件の場合、初犯は9割が執行猶予付きの懲役刑で、再犯が重なるほど刑期が長くなる。しかし、白書は「起訴猶予や執行猶予に感銘を受けることなく、短期間のうちに再犯に及んでいる者も相当程度いる」として、執行猶予などは「対象者の特質や再犯の可能性を十分見極めて行うことが肝要だ」という提案だ。

 ただ、重罰化の問題とも絡むため慎重な論議が必要ではある。

 もう一つ注目するのが「包括的かつ継続的な対策(指導監督と支援)が不可欠」という指摘だ。

 白書は殺人の動機について「憤まん、激情が初犯、再犯ともに最も多く、同じ動機で罪を犯す場合が多い」と分析。「殺人を行った者の特性を除去するための個別具体的な処遇を徹底的に行うことが重要」としている。

 ほかにも再犯率が高いとされる性犯罪者らに対する個別教育プログラムも重要だ。しかし、わが国は他の先進国より遅れているといわれる。さらに教育、支援に力を注ぐべきである。

 また再犯防止には、刑期を終え出所した後の支援も欠かせない。

 例えば更生保護施設などの整備もある。保護観察をはじめ社会内処遇強化も白書は提案している。就職や生活指導など関係機関が連携して社会復帰に導くことも再犯防止の鍵となる。

2007年11月06日

税制の抜本的見直しと一体で

 自民党や政府部内で増税論議が活発化している。

 膨張する社会保障関係費を賄う安定的な財源として、消費税を軸とした増税は不可避になるとの認識からだ。

 国と地方合わせて約800兆円という巨額の借金を抱えている状況下で、財政再建が最優先に取り組む政策課題であることは言うまでもない。

 小泉政権時代に「歳出・歳入一体改革」の財政再建手法が打ち出され、安倍政権も踏襲したが、歳入改革の柱である増税論議は封印されていた。

 増税論議を目先の財源不足を補うためのつじつま合わせにすることなく、税制の抜本見直しと安定した歳入構造の構築につなげなければならない。

■消費税引き上げ傾斜■

 増税を含む歳入構造改革は、長期間にわたって慣例化・既得権益化した歳出構造の抜本的改革など、徹底した歳出の削減と一体で進めるべきだ。

 その意味では、自民党の一部や政府の経済財政諮問会議の議論には気になる点がある。

 社会保障関係の財源として消費税を充て、増税を実現させようという方向に傾斜している印象が強いからだ。

 確かに政府は、2009年度までに基礎年金の国庫負担割合を現在の3分の1から2分の1へ引き上げるとしており、そのために必要な約2兆5千億円の手当ては避けて通れない。消費税率に換算すると1%分に相当する。

 財政健全化を進めるなら、その財源を赤字国債に頼る逆戻りはできない。だから消費税引き上げだというなら、単なる増税への逃げ込みになる。

 社会保障関係の予算は、年金・医療・介護・福祉など主に社会的弱者への施策だ。これらの行政サービスが低下することには国民の反発は強い。

 福祉政策の水準を維持していくための増税なら国民の理解が得やすいと、増税派は考えているのかもしれない。

■「増税換算」独り歩き■

 だが、社会保障費は来年度も7500億円の自然増が見込まれている。

 概算要求基準(シーリング)では増加額を2200億円圧縮するとしているが、行政サービスの維持のため、毎年の自然増分を消費税で調整する方式を繰り返すことはできない。

 また経済財政諮問会議では、基礎年金部門を全額税金で賄う「全額税方式」が議論された。

 その場合、09年度で12兆―16兆円の追加財源が必要になり、消費税で賄うとすると5―7%の増税が必要になるとの試算が示された。

 民主党も、消費税の目的税化による最低保障年金などの年金改革を提唱している。

 現在の保険料方式を継続させるか、「公的扶助」として税方式に転換するのかは、将来の日本の経済・社会制度の在り方にかかわる、いわば「哲学」の問題でもある。

 年金の在り方を見直す国民的な議論が必要であり、拙速になることなくメリット、デメリットをじっくり吟味して結論を出さなくてはならない。

 増税論議の中では、社会保障関係の歳出に焦点を当ててさまざまな「増税換算」の試算が独り歩きしている。

 先の政府税制調査会でも消費税率引き上げが必要との意見が大勢だった。

 目先の財源不足の穴埋めでなく、公共投資や地域間格差、教育、環境などあらゆる分野の歳出構造を洗い直して増税論議を進めなくてはならない。

2007年11月05日

不可解で有権者に説明つかぬ

 多くの国民にとっては不可解というしかないだろう。参院選で投じた有権者にも説明はつかないはずだ。

 民主党代表の小沢一郎代表が、代表辞任の意向を表明した。

 福田康夫首相との党首会談で、要請された連立政権協議をめぐり政治的混乱が生じた。その責任を取り党内外に対するけじめをつけるのだという。

 政策実現という目的があるにせよ、連立への傾斜は窮地に立った自民党を助け起こすものであり、役員会で猛反発を食らったのも当然だろう。

 辞任表明は、責任を取るという言葉とは裏腹に無責任極まりなく、さらなる政治不信を増幅させた罪は重い。

批判浴びた連立協議

 福田首相との連立協議は、小沢氏に対する不信感を生んだだけでなく、参院で統一会派を組む国民新党や他の野党からも一斉に批判を浴びた。

 そうしたことに嫌気がさしたのか。小沢氏は辞意表明の記者会見で「与党との政策協議が認められなかったことは、私が選任した党役員から不信任を突きつけられたのと同じだ」と語ったが、分かりにくい。

 疑心が生まれたとしても、党内には辞任を求める声はほとんどなかった。いつ衆院解散・総選挙があってもおかしくない状況を考えれば、小沢氏の行為は無責任というしかない。

 十分な説明がないまま、1997年に新進党を突然解党したことが思い起こされる。また安倍晋三前首相が所信表明直後に政権を放り出した姿とダブって見えてくる。

 衆参ねじれ国会で法案が思うに任せないため、福田首相が民主党に協力を呼びかけたことは理解できる。

 だが、なぜそれが一足飛びに第一党と第二党が手を結ぶ大連立という話になるのか。多くの国民には不可解と映ったに違いない。

対案で政権能力示せ

 重要な課題が待ったなしというのであれば、安全保障や国際貢献、年金制度、税制改正など個別のテーマで協議して実現を図るパーシャル(部分)連合を模索してもいいはずである。

 何より、先の参院選で民主党に一票を投じた有権者に説明がつかない。

 選挙を通じて政権交代可能な二大政党制を目指すというのが小沢氏の持論であり、自民党を飛び出したのもそのためだったはずだ。

 年来の目標が視野に入るようになった今、それを放棄するような連立が国民の共感を呼ぶとは思えない。

 小沢氏は実績を残すことが政権に近づくと考えたようだが、それも賛成できない。一義的には政府の手柄になるからだ。政権担当能力は、しっかりした対案を示す以外にない。

 また小沢氏は「次期衆院選で勝利して政策を実現することが最終目標だがいまだ力量不足」とも述べた。

 民主党勝利に自信が持てないから連立を組もうと言うのなら、それこそ民主党支持者を裏切るものであり、重大な背信行為と言わざるを得ない。

 連立によって自民と民主両党による巨大与党が誕生すれば、少数政党の意見は無視され、国会がチェック機能を果たせなくなる恐れがある。それこそ議会制民主主義の危機だ。

 民主党は小沢氏の私党ではない。党首会談から代表辞任に至るまで、独断ぶりが過ぎたのは否めない。

 「壊し屋」が民主党だけでなく、国民の期待まで壊してはならない。

2007年11月04日

実効性を高め犯罪被害防ごう

 携帯電話やパソコンの「出会い系サイト」を通じ、子供が犯罪やトラブルに巻き込まれる事例は増える一方だ。

 このため、政府は「出会い系サイト規制法」(2003年施行)改正で未成年者利用の防止を徹底する。

 IT戦略本部(本部長・福田康夫首相)が近く、「有害サイト集中対策」を決定するが、この中には学習指導要領を改定し、有害サイトへの適切な判断力を育成する「情報モラル教育」を推進することも盛り込んだ。

 有害サイトは、出会い系ばかりではなく、凶悪な事件につながる闇サイトなどネット上に数限りない。これらも含めた法規制論議と併せ、子供たちへの適切な指導が必要だ。

■中高生の被害が急増■

 警察庁のまとめでは、今年1月から6月までの出会い系サイトに関連した事件の被害者は708人で、85%に当たる604人が18歳未満だ。このうち、96%は携帯電話からアクセスしており、ほとんどが中高生という。

 また、県警によると県内で昨年1年間に出会い系サイトで被害に遭ったのは15人だったが、今年は8月末までにすでに17人と増加傾向にある。全国の傾向と同様にその多くが中高生であり、深刻な状態だ。

 これらの中高生らは、ちょっとした好奇心からサイトにアクセス、そこで知り合った大人から性犯罪の被害を受けるケースが多い。

 現行の出会い系サイト規制法も未成年者の利用を禁じ、事業者に対しては年齢確認を義務づけるなどしている。しかし、実際には未成年者らが容易にアクセスできるのが実情だ。

 対策案では本年度中に法改正の結論を得るとしているが、未成年者が利用できないような具体的で厳格な規制をどう盛り込めるかが課題だ。

■保護者の意識高めよ■

 対策案は、闇サイトを通じて知り合った男三人による女性拉致・殺害や自殺サイトを舞台にした嘱託殺人などの事件続発を踏まえて、関係省庁でつくる「IT安心会議」が策定した。

 ただ、憲法が保障する表現の自由との兼ね合いから、出会い系を除く有害サイトの法規制は引き続き見送られることになり、出会い系の規制が行われてもその実効性には疑問が残る。

 内閣府の有害情報に関する特別世論調査では、わいせつ画像を提供したり、自殺・犯罪を誘引したりするインターネット上の有害サイトの規制を求める人は90%以上にのぼっている。

 こうした背景には昨今のネット上でのあまりに過激な性情報のはんらんや、凶悪な事件につながる闇サイトが野放し状態になっていることがある。

 表現の自由を保障するにしても、そこには公益性や未成年に対する配慮、犯罪防止への最大限の対策が取られていることが前提だ。出会い系に限定せず広く有害サイトに対する法規制議論がなされるべきではないか。

 携帯電話各社では未成年者が購入する際、保護者に有害サイトの閲覧を制限するフィルタリングの意思確認など行っているという。

 ただ、携帯電話やパソコンの操作方法を子供の方が詳しく、子供が実際にどのような使い方をしているか十分に把握していない親も多い。

 法による規制だけでは限界がある現状では、サイトの危険性を周知する機会を広く設け、保護者の意識を高めることも必要になっている。

2007年11月03日

冤罪防止に効果はまだ不十分

 冤罪(えんざい)事件などで警察の取り調べに不信感が高まる中、警察庁は取り調べの監視監督機能を捜査部門以外が行う新たな制度の導入方針を固めた。

 年内にも指針を作成し、早ければ来年度にも各警察本部で実施に移す。

 鹿児島県の選挙違反無罪判決や富山県の強姦(ごうかん)冤罪事件などを受けて、警察の強引な自白強要が問題となり、取り調べの様子を録音・録画する「可視化」の導入論議が高まる中、警察庁が自主規制をかけることで可視化への圧力をかわそうとの狙いもみえる。

 だが、新制度は身内による監視監督にとどまり実効性には疑問も残る。取り調べの在り方については可視化も含め、まだまだ検討が必要だ。

■全面可視化に危機感■ 

 現在の犯罪捜査規範では、「取り調べその他の捜査の適正な遂行」は捜査主任官が行うと規定されている。このため、取り調べの監視監督はそれぞれの捜査部門が行っている。

 今回、警察庁が示した方針では、取り調べの監視監督のため、警務など別の部門に新たな組織をつくるというものだ。捜査の過程に他の部門がかかわることになり、これまでの警察捜査にとっては大きな転換である。

 最近続いた冤罪事件によって警察への信頼を失ったことに対する強い危機感の表れといえる。

 鹿児島、富山の事件を受けて、事件関係者や日弁連などからは、取り調べの可視化を求める声が一層強まっていた。しかし、警察庁側は「被疑者との信頼関係の構築」「プライバシー保護」などの理由で強く反対の立場を取り続けていた。

 しかし、世論や国会での可視化法案化の動きから、警察庁側は全面可視化を避けるため対策を打つ必要に迫られたというのが実情で、これで完全に信頼回復とはいかないようだ。

■身内の対応には疑問■

 これまでの警察の犯罪捜査では、密室の中で取調官からの強圧的な自白要求が行われ、正常な精神状態ではない中で被疑者が供述してしまうといったことが問題視されてきた。

 鹿児島の事件で警察官に足をつかまれ、家族の名前を書いた紙を踏ませられるという「踏み字」が平然と行われたのは、その最たる行為である。

 警察庁が新たに示した制度が機能するためには、新組織が独自に活動できて不適切な取り調べが行われた場合、確実に情報が得られることが重要だ。

 そこで新制度では、取り調べが長時間に及んだり、深夜にまで行われていないかなど被疑者の留置場の出入りを報告したり、新組織が被疑者から苦情を受け付けたりする。また、取調室の巡回なども検討しているという。

 新制度はある程度の効果は期待できるが不十分な点も多い。例えば別の部門による新組織だが、結局は身内である。多くの役所が身内に甘い対応を取ってきた例は枚挙にいとまがない。組織のメンバーに専門的な知識を有する部外者を入れる必要もあるだろう。

 また、現実に全国の警察署で事件捜査は日常数多く行われ、そのすべてに細かく対応できるかも心配だ。

 このように新制度での実効性に疑問が残る以上、警察庁は取り調べ適正化に向けては可視化も積極的に検討すべきである。今回の新制度が全面可視化を回避するための対案だとすれば、また取り返しのつかない冤罪を引き起こしてしまう危険がある。

2007年11月02日

真の国際貢献を考える好機に

 石破茂防衛相はテロ対策特別措置法が失効したのに伴い、給油活動のためインド洋に派遣していた海上自衛隊に撤収命令を出した。

 6年近くにわたって続けられた給油活動は中断、新テロ対策特別措置法案の成立は見通せず、活動再開のめどは立たない情勢だ。

 福田康夫首相は早期の新法案成立を目指し、民主党への協力要請など行っているが、ただ活動再開ばかりを急ぐのではなく、これまでの活動について深く検証していくことも大切だ。

 いま必要なのは、平和憲法の下で日本が果たし得る国際貢献の在り方をしっかり見直すことではないか。

まず平和回復と復興

 テロ特措法は2001年9月の米中枢同時テロを受け、アフガニスタンでの米英軍などの軍事行動を後方支援するため、同年10月に成立した。

 当初2年間の時限立法だったが、政府は3回にわたり同法を延長してきた。しかし、7月の参院選で与党が惨敗し、参院で与野党が逆転したことから4度目の延長を断念した。

 政府、与党は日本の原油輸入の中東依存度が9割近くに上ることから「インド洋の平和と安全は国益に資する」と給油継続の意義を強調している。

 ただ、ここでもう一度原点に立ち返って考えてみたい。わが国が「テロとどう向き合っていくのか」を。

 海自による給油は米英仏パキスタンなど11カ国の艦船に行われ、確かに高い技術力などで評価を得てきた。各国からは日本に対する活動継続を求める動きがある。

 政府や外務省サイドは「給油活動は目に見える日本の国際貢献」と強調する。だが本来、日本が果たすべき役割はアフガニスタンの平和回復と復興であり、各国からの評価や国益ばかりに気をとられてはいないか。

過去の活動検証必要

 アフガニスタンとその周辺での各国による「対テロ作戦」から日本の姿が消えることで、政府、与党からは日米関係の悪化や国際社会からの孤立を懸念する声が聞かれる。

 だが、諸外国からの評価や要請だけを根拠に、わが国のテロ対策を「給油活動」に絞って議論を続けていいものだろうか。日本が成すべき貢献はほかにもあるのではないか。

 過去6年近くの給油活動について政府がその情報を開示し始めたのはほんの最近になってからだ。それまでは「テロの標的になる」などとして活動内容は伏せられてきた。

 そして今、明らかになったのは米補給艦への給油量誤りの隠ぺいや内規に反する航海日誌の廃棄、給油した燃料がイラク戦に転用されたとの疑惑だ。

 政府は日米関係などを言う前に、これまでの給油活動の全容を包み隠さず国民に示すことだ。それにより給油活動も含めて、今後の国際貢献の在り方も考えることができる。

 対テロ新法案についても、活動の中身を米艦船などへの給油、給水に絞っているが被災民救援活動などは削られた。こうした点でもほんとうに支援を受ける側の立場に立って論じられているのか疑問も残る。

 日本が目を向けるべき相手はテロとの戦いに参加する国々ではなく、戦禍で苦しむ人々ではないか。

 給油活動に区切りがついた今、日本にふさわしい真の国際貢献の在り方をじっくり議論すべきだ。

2007年11月01日

提供意思生かせる制度改正へ

 脳死での臓器提供を可能にする臓器移植法が施行されてちょうど10年。

 この10年で61件の提供があり、心臓、肺、肝臓、膵臓(すいぞう)、腎臓、小腸が計243人に移植された。

 脳死移植は少しずつ増加している。しかし、心臓だけで年間2千件以上の移植が行われる米国や欧州諸国、さらにアジアの韓国や台湾と比べても、日本の件数は際立って少ない。

 特に15歳未満の脳死での臓器提供が認められていないため、子どもへの心臓移植は国内では不可能だ。

 脳死と判定された場合、「臓器を提供したい」と考える人が少なくない中で、貴重な意思が実際の移植につながっていない現行制度の課題がある。

■今国会に改正案提出■

 国会に昨年提出された臓器移植法改正案は、参院選での与党大敗などで今後の審議は不透明だが、患者団体などは早急な改正を望んでいる。

 だが、どうやって提供数を増やすかという数字だけの話ではない。国民の理解を深めるには、脳死と移植医療についての本質的な議論が不可欠だ。

 臓器移植法は1990年に設置された「臨時脳死及び臓器移植調査会(脳死臨調)」の答申を踏まえ、94年に超党派の議員立法として法案が提出され、97年に成立した。

 臓器提供を前提とした脳死判定のときだけ脳死を人の死とし、意思表示カードなど書面による意思の表示を必要とする厳格な条件が特徴だ。

 今国会には二つの改正案が提出された。一つは年齢に関係なく、本人の意思が不明確なときは家族の同意で脳死での臓器提供ができるとするA案。

 もう一つは、現行法の枠組みで書面での意思表示ができる年齢を12歳以上とするB案だ。

■負担大きい医療現場■

 A案では、脳死を一律に人の死とすることに国民の合意があるのか。B案では、提供可能な年齢を引き下げてもずっと小さな子どもへの心臓移植はできない。両案の抱える課題は多い。

 さらに、移植医療の現場の実態と問題点も考慮しなければならない。現行法下でも、臓器提供の場面で医療側に課せられた役割は大きい。

 例えば突然の事故や急な発作で、救急病院に運び込まれた患者の家族はほとんどが激しく動揺している。

 その中で医師らは、患者に脳死の可能性があるとき、意思表示カードを保持しているかどうかを確認。家族に対し、脳死での臓器提供の道があることを伝えるよう期待されてもいる。

 救命に力を尽くし、家族の心情に沿った看取(み)とりや終末期医療を行い、さらに移植の可能性の追求…。重要な作業だが、大きな負担には違いない。

 実際には、家族から患者が意思表示カードを所持しているとの申し出があり、提供されることが多い。

 だが、もし「本人意思が不明の場合は家族の同意で可能」となると、救急医療現場への影響は極めて大きい。地方の中核病院で救急医療の医師が減少している中、体制整備は不可欠だ。

 臓器提供の意思表示カードは、自らの万一の場合、終末期にどのような医療を望むかという「リビングウイル」の一つでもある。

 現代社会では死が遠ざけられ、身近に感じることが少なくなっている。移植医療を通して家族でも話し合う機会を持ちたい。生と死について考える格好のテーマになるに違いない。

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