2007年10月の記事一覧
「政治の停滞」打破する契機に
福田康夫首相(自民党総裁)と民主党の小沢一郎代表による初めての党首会談が行われた。
首相は、インド洋での海上自衛隊による給油活動を継続する新テロ対策特別措置法案の今国会成立への協力を要請したが、小沢代表は「認められない」と拒否、平行線に終わった。
同法案をめぐる審議は衆院特別委でも始まったが、防衛省をめぐる疑惑の真相解明に労力を割かれ、実質的な審議がなかなか行えない状態だ。
ただ、こうした政治の停滞で影響を受けるのは同法案だけにとどまらない。ほかに課題も多く、国民生活にしわ寄せされないよう与野党には建設的な話し合いを進める姿勢がほしい。
打開向け近く再会談
海自によるインド洋での給油活動はテロ特措法が1日で期限切れになるため、現在派遣されている部隊は任務を終え近く帰国する。今国会に提出された新法案の早期成立の見通しは立っておらず給油活動の「空白期間」は半年以上に及ぶとの見方もある。
新法案を一刻も早く成立させ給油活動再開に踏み切りたい首相は、「内外の理由から何とか(成立に)協力してほしい」と求めたが、小沢代表は「自衛隊の海外派遣はきちんとした原則、すなわち国連の活動の枠内でしか許されない」と従来の主張を述べた。
これまでの双方の立場から会談の物別れは予想されていた結果ではある。
首相は事態打開を目指して週内の再会談を要請、小沢代表も了承した。確かに、この法案の審議はずるずると引き延ばすべきではない。
日本が今後、テロ対策にどのように貢献するのか明確に示すことは国際社会の一員としての責務である。そのためには民主党の対案もしっかり引き出し、わが国の国際貢献の在り方を内外に早く示すべきだ。
国民最優先の審議を
首相の再度の話し合い要請には小沢代表も積極的に応じる構えだ。重要な法案に早く道筋をつけるためにもそうした姿勢は評価したい。
それにはまず、防衛省前事務次官の癒着疑惑などの真相究明は与野党双方で今、全力を尽くすべきだ。その上で、同法案以外の諸課題にも一刻も早く取り組まなければならない。
例えば、自然災害などで被害を受けた人を支援する「被災者生活再建支援法」だ。与野党とも国会に改正案を提出しているが互いの歩み寄りにより接点を見いだせるのではないか。
「政治とカネ」の問題も遅々として議論が進まない。政治資金規正法の再改正で早く結論を出し、国民の政治に対する信頼を回復することは、首相が就任の際に最重要課題に位置付けた。領収書の全面公開に踏み切ることは、難しい問題ではない。年金問題もまだ未解決である。
「日本の政治はこのままではいけない。新しい動かし方を話し合いたい」。首相は党首会談に当たってこう強調したという。衆参で与野党が逆転する「ねじれ国会」により、政治が閉塞へいそく状態に陥っているからだろう。
次期衆院選の結果次第ではこの状態はしばらくは続くこともある。それならば、状況に適応した国会審議の在り方を与野党で確立する必要がある。
「国民最優先」という政治の原点に立ち返り、党利党略を離れた姿勢が互いに求められる。今回の党首会談をその契機にしてもらいたい。
深まる疑惑さらに徹底追及を
防衛商社「山田洋行」の元専務との癒着疑惑が浮上した守屋武昌前防衛事務次官に対する証人喚問が衆院テロ防止特別委員会で行われた。
前次官は妻を含めて元専務側からゴルフ接待を受けていたことを認め、自衛隊員倫理規程に違反する行為について「不適切であり、配慮を欠いていた」と謝罪した。
一方、装備品契約での山田洋行への便宜供与や海上自衛隊の給油量訂正に絡む隠ぺい問題への関与については否定したが、真相はなお闇の中だ。
防衛省に対する国民の不信感はぬぐえていない。政府、国会はさらに徹底した調査や追及を続けるべきだ。
■変わらぬ組織の体質■
今国会では海自によるインド洋での給油活動を継続するための新テロ対策措置法案審議が焦点になっている。
しかし、過去の給油活動をめぐる防衛省の不祥事が相次いで発覚した上に前次官の癒着疑惑が浮上。野党側から法案審議の前提として証人喚問の実施が強く求められていた。
現在のテロ特措法に基づく海自の給油活動は来月1日で期限切れとなるため活動が中断することは免れない。政府、与党としては国会会期延長も視野に早期の新法可決で給油活動を再開したいところだろう。
しかし、そのためにはまずやるべきことがある。形式だけの証人喚問で済ませることなく、一連の疑惑解明や不祥事再発防止の抜本的な対策を立てることが政府に課せられた責任だ。
防衛省は1月、「庁」からの昇格を果たした。だが、これまで不正発覚のたびに組織改編などしてはきたが結局、体質は改善されていない。
新法案の審議はわが国の今後のテロ対策の在り方を決める重要な機会で、国際社会も注目している。その審議に当たっては当然、国民の防衛行政に対する信頼が大前提になる。
■歴代トップにも責任■
今回の証人喚問を受けて「疑惑はさらに深まった」と、野党はさらに攻勢を強めていく構えだ。前次官に対する再喚問やほかの関係者に対する喚問要求も強まってくるだろう。
証人喚問では、元専務による接待疑惑、装備品契約をめぐる便宜供与の有無、海自の給油量訂正問題への関与がポイントとなった。
ゴルフ接待について、前次官は「11年前からやっており、200回は超えているだろう」と述べた。さらにゴルフセットの提供、接待旅行なども受けたと認めており言語道断である。
前次官を重用してきた歴代防衛庁、省のトップの責任も当然問われる。
便宜供与に関しても前次官の説明はふに落ちない。前次官は元専務とは対等な友人関係というが、数々の接待からしてどこが対等と言えるのか。
業者がなんの見返りも期待せず、こうした接待を繰り返すとは考えられない。元専務や関係者の国会招致、情報開示を求めるべきではないか。
給油量訂正も当時、防衛局長だった前次官は「後で報道で知った」というが、官房長官や防衛庁長官の国会答弁などを作成した責任者だった。さらに関係者から説明を聞き、事実関係を整理する必要がありそうだ。
前次官と業者の間での契約をめぐり捜査当局の調べも今後進んでいくだろう。ことは防衛行政の根幹にかかわる問題だ。さまざまな角度から徹底した真相解明を図る必要がある。
官民一体となって警戒体制を
県内の河川や沼などで渡り鳥を見る季節になった。高病原性鳥インフルエンザ(H5N1型)が今年1月、県内3カ所で相次いで発生、養鶏農家だけでなく本県全体を揺るがせた。そのウイルスを運んだのは渡り鳥の野鳥である可能性が高い。一部農家は消毒用石灰を鶏舎の入り口に散布するなど警戒を始めた。準備を万端に整え、官民一体となって発生を防ぎたい。
国内での高病原性鳥インフルエンザは2004年、79年ぶりに山口、大分県、京都府で発生。05年には茨城、埼玉県。そして今年1月に清武町、日向市、新富町で続けざまに確認され、約20万羽が殺処分された。
■鶏舎の整備状況点検■
就任間もない東国原知事が風評被害を防ぐために奔走した姿はまだ記憶に新しい。1月の時は発生した養鶏農場の素早い連絡により感染の拡大を防ぐことができた。牛の口蹄(こうてい)疫の防疫体験もあって県も迅速に対応、3月1日に終息宣言が出された。
県はその後、6月から鶏を千羽以上飼育している養鶏農家約千戸を訪問した。野鳥などが鶏舎に侵入しないようにネットや金網の整備状況を点検。ネズミなどがすみやすい鶏舎周辺の草むらを刈るなどの指導をしてきた。
さらに鳥インフルエンザの防疫の実践をまとめたマニュアル600部を県が作製、関係者らに配布している。マニュアルでは、症状や発生直後からの綿密なタイムスケジュール、例えば発生後に殺処分するときの掘削方法を絵で解説したり、穴の中に敷くワラの厚さや鑑定材料を航空輸送するための手順などが具体的に書いてある。132ページに及び、防疫従事者の留意点、広報車の原稿などまで細かく記してあり、他県からも問い合わせがあるという。
■まずは素早い連絡を■
児湯養鶏農協は、池や河川など野鳥が立ち寄るような場所には行かないように指導している。鶏舎周囲には消毒用石灰をまいた。県内のほかの養鶏農場も警戒体制に入る予定だ。
関係者からは「絶対に発生させない」との強い思いと緊張感が伝わる。万一発生した場合の補償は、発生農場に対しては殺処分した鶏や使えなくなった器具などについて評価委員会を設けて査定し、被害の五分の四を国が助成。さらに発生農場以外で、発生地点から十キロ以内にあるために出荷、移動を制限されて生じた農場の被害については、県の助成制度がある。
どんなに警戒しても野鳥の乾燥したふんなどが風と一緒に鶏舎に侵入することも考えられる。養鶏農家にとって補償は十分ではない面もあるかもしれない。しかし被害を最小限に抑えるためにも鶏舎内の鶏に異常があればすぐに行政に連絡することが何よりも肝要だ。養鶏農家、県、市町村、県警など官民一体となった関係機関の連携で感染の拡散を防ぎ、行政は被害農家を経営的にも支援してもらいたい。
本県で発生した同型の鳥インフルエンザは、中国、韓国などアジア一帯のほか欧州、アフリカ、中近東、北米と広く感染例がある。感染経路には不明な点も多いが、特に中国大陸でウイルス感染した野鳥が危険視されている。これまでの例では渡来途中の韓国で発生例が起きてから、ほぼ一カ月後に日本で確認されているという。
アジア各国との情報交換を国、県とも密にし、海の向こうからやってくる「冬の使者」たちを注視していこう。
国民合意の政令づくり目指せ
一般の国民が裁判官と一緒に重大な刑事事件の裁判を行う裁判員制度の実施まで約1年半となった。
同制度は広く国民が参加することで司法への理解を深め信頼を高める目的がある。法律の素人である国民が参加する。誰にでも内容が分かりやすく公平な制度でなければならない。
中でも大きな関心事が裁判員候補に選ばれた際、どのような場合に辞退できるのかということ。その事由についての政府政令案が決まった。
今後、一般からの意見も求め年内の公布を目指すが、基準にはなお不明確な点もある。さらに衆知を集め、より良い政令に仕上げなければならない。
■個人的な事情に配慮■
2004年に成立した裁判員法では、裁判員になることや選任手続きを辞退できる理由として「重い疾病や傷害」「同居親族の介護・養育」「処理しないと著しい損害が出る重要な用務」などを列挙している。
それ以外にも、政令で定める「やむを得ない事由」がある人も辞退ができるとしており、その細かい内容の検討を法務省が進めていた。
政令案は、辞退理由として「妊娠中または出産直後」「配偶者らの入院に付き添い」「住所が遠隔地にあり、裁判所に出頭することが困難」など具体的な5項目を掲げ、さらに包括的な項目として「自己または第三者に身体上、精神上、経済上の重大な不利益が生じること」を加えた。
特に「やむを得ない事由」を中心に裁判員法をより具体化したもので、対象を広げた点は妥当な内容といえる。
個人的な立場や事情から負担が大きい人に配慮した結果だが、一方で幅広い層の国民が参加することを求める裁判員制度の理念との調整は今後の課題となりそうだ。
■公平さ政府案に課題■
政令案で決められた辞退理由の中で議論を呼びそうなのが包括的な項目の「自己または第三者に身体上、精神上、経済上の重大な不利益…」のケースだ。多くの点で不明確さが残る。
法務省の説明では身体上の不利益の一例として、ストレスがかかるとパニック障害が出てくる場合であり、経済上の不利益では多額のキャンセル料が発生する海外旅行などだという。
病気の場合、辞退は仕方ないとしても旅行などが理由として通るかどうかは判断が分かれるところではないか。
そしてさらに判断を難しくするのが「精神上の不利益」だろう。
法務省は「宗教的信念で死刑に反対の人が死刑相当事案の裁判に携わるとき」などを想定しているが、極端な話をすれば裁判員を引き受けたくない人がそういう主張をする恐れもある。
思想信条の自由を辞退理由として認めるか、とも密接にかかわる。
実際には除外されたが、裁判員制度で強制的に呼び出すことは思想信条の自由を侵害する恐れがあるとの意見もある。重く受け止めるべき批判だ。
だが一方で、思想信条を理由とする辞退を安易に認めたら広く国民の参加を求める制度の趣旨が生かされない。
結局、政府案は「精神上の不利益」という部分にその判断の余地を残した形だが、実質的には個々の地裁にげたを預けたもので広く国民に公平な制度としてはなお不十分だ。
国民負担や憲法との整合性を考慮、広く納得される政令に向けて政府案にはまだ多くの課題が残されている。
成績で学校間の競争あおるな
文部科学省が小学6年と中学3年の学年全員を対象に実施した「全国学力テスト」の結果が公表された。
都道府県別の平均正答率の差は、一部地域を除き各教科で小幅だった。学校ごとの成績も約7割が、全国平均正答率のプラスマイナス10ポイントの範囲内に収まり、大きなばらつきはない。
本県(公立校のみ)は、ほとんどの教科で正答率が全国平均を上回り、県教委は結果を評価している。
ただ、ここで大事なのは出てきた結果をどう分析し、今後の教育施策に生かすかだ。地域や学校単位の数字だけにとらわれることなく、個々の児童、生徒の学習改善につなげていきたい。
■データ丁寧に分析を■
今回の学力テストは学年全員対象の調査としては43年ぶりで小六、中三とも国語、算数・数学で行った。
国際比較の学力テストなどと同じ傾向で、文科省は「知識」の問題はいいが、それを実生活で応用できるかを試す「活用」に課題があると分析する。
結果は教育施策や学習指導要領の改定などに反映させる考えだが、この傾向はすでに分かっていたことで長年、日本的学力の課題とされていた。
このような当たり前のことの再確認にとどまらず、得られたデータをさらに丁寧に分析し、地域や学校、家庭の取り組みに生かしてもらいたい。
今回の結果では「(学力の)大都市とへき地の格差は縮小、全国のばらつきもなかった」と文科省はほっとしているところだろう。だが、おおむね平均的な範囲内の都道府県であっても地域、学校間、個人的な差はあり、これらをどう手当てするかも問われる。
学校の問題だけでなく経済、生活環境などさまざまな格差も背景にあるだろう。そうした観点から省庁の枠を超えた処方せんを考える必要もある。
■学校の序列化を危惧■
今回の学力テストが学年全員参加型の調査であり、結果の公表の在り方を難しくしている面もある。公表の仕方によっては市町村、学校ごとのランキングに結びつくからだ。教育委員会や各学校が結果をどう公表するか、今後大きな議論となるだろう。
県教委や県内30市町村教委は基本的には学校や市町村別の成績を公表しない方針だ。「学校の序列化により競争過熱を招く」「成績の数字が独り歩きする可能性がある」などが理由だ。
だが、本人や保護者にしてみれば通う学校や自分の学力が全体のどのレベルに位置するのか気になるのも確かだろう。「本人や学校、家庭で情報を共有してこそ意識も変わる」と限られた公表内容に不満を示す親の声もある。
一方で、学校のランキング化が形になれば教師はテストの点数を上げることばかりに時間を割かれ、現場はゆがんでくる、との危惧きぐもある。
そこでまず各教委や学校がどのような形で公表するにしても、今回のテストが示す学力は「特定の一部分」にしかすぎないということを冷静に受け止めたい。その上で、格差があるとしたら何がそれをもたらしたか背景をじっくり分析する必要がある。
学力には学校の指導だけでなく、親の経済力、塾などさまざまな要素が絡んでくる。単に数字の比較を独り歩きさせて、結果を学校教育の評価にストレートにつなげるべきではない。
学校間競争ではなく、個々の学力を高めるため状況に応じた指導方法を教師や親が再考することが重要だ。
被害者救済に全力で取り組め
薬事行政の根幹を揺るがす事件がまた起きた。繰り返された薬害の教訓が全く生かされていない。
薬害肝炎でフィブリノゲン製剤投与後にC型肝炎に感染した患者の一覧表が、製薬会社から厚生労働省に報告されながら患者に知らされず、地下の倉庫に放置されていたのである。
訴訟などで患者団体から追及されてようやく資料が見つかった。薬害エイズの場合と同じ経過をたどっている。隠蔽いんぺいと批判されてもやむを得ない。
許されない行政の不作為である。そもそも今の厚労省に薬事行政を担える資格があるのか、疑わしい。患者らの怒りと無念はいかばかりだろう。
■ウイルス処理後回し■
血液を介して感染する肝炎は、A型とB型が1960年代に見つかった後も非A非B型が残っていた。それがC型肝炎である。
ウイルスが発見され、検査法が普及したのは90年代に入ってからだ。
旧ミドリ十字が止血剤として製造、販売していたフィブリノゲン製剤は人の血液から作られ、未知のウイルスに汚染している可能性は高かった。
米国ではC型肝炎ウイルスが見つかるよりかなり前の77年に承認を取り消し、販売を禁止していた。
これに対し日本では販売、使用が漫然と続き、製造過程で必要なウイルス除去処理はいつも後回しになった。
対策が検討されたのは、87年に青森県三沢市で発生した肝炎の集団発生が分かってからだ。その結果、フィブリノゲン製剤によるC型肝炎感染が推計で1万人以上に拡大した。
このC型肝炎の薬害症例が2002年、厚労省の求めに応じて四回報告された。だが、製薬会社が旧ミドリ十字からウェルファイド、三菱ウェルファーマ(現田辺三菱製薬)と変転したのも症例把握の混乱に拍車をかけた。
■患者へ連絡なおざり■
薬剤や医療は、患者の利益を最優先するのが絶対の原則である。
ところが現状では、医師の処方する医薬品は、認可する厚労省と製薬会社、医師の間だけで情報が行き来するだけにとどまっている。
今回のケースも責任を押し付け合い、フィブリノゲン製剤を投与した医師や医療機関など誰も患者の救済に動こうとしなかった。肝心の患者への連絡さえなおざりにされたのである。
サボタージュここに極まれり、だ。
厚労省の倉庫に眠っていた資料は、02年8月9日に三菱ウェルファーマから出された第4回報告だった。
その直後の8月29日、厚労省は「フィブリノゲン製剤によるC型肝炎に関する調査報告書」を公表した。
報告書は薬事行政の対応を分析し、安全確保策をまとめていた。だが、薬害被害者一人一人への具体的な救済措置は抜け落ちていた。こうした行政姿勢が重要資料の放置につながった。
一覧表の480人を徹底的に追跡して連絡し、治療を受けるよう積極的に働きかけるべきだ。むろんこれは薬害肝炎被害の氷山の一角である。被害者救済の幅広い再調査を求めたい。
C型肝炎ウイルス感染者は中高年を中心に全国で約100人に上ると推定されている。過去の輸血や注射の回し打ちなどが原因だ。
一部は肝炎や肝硬変を経て、感染から約30年後に肝がんになるといわれる。こうした感染者への医療を充実させるのも、薬事行政の責任である。
新テロ法審議は真相解明から
インド洋上での海上自衛隊による給油活動に関する本格的な国会論議に入ろうとした矢先、防衛行政への信頼を失墜させる問題がまたも浮上した。
防衛省の守屋武昌前事務次官が関係業者とゴルフを頻繁に行い、癒着が取りざたされている。前次官は「自衛隊員倫理規程」に違反することを認識していたと認めており、指導的立場にある事務方トップの行為は、あまりに非常識と言わざるを得ない。
防衛省への信頼が揺らいだまま、給油活動の問題で国会審議に入るわけにはいかない。前次官への証人喚問や関連情報の開示は当然であり、徹底的な疑惑解明が必要だ。
■証人喚問徹底追及を■
前次官が頻繁にゴルフをしていた相手は防衛・航空分野の専門商社「山田洋行」の元専務といわれている。
山田洋行は2002―06年度に、次期輸送機(CX)試作機用エンジン計5基(約39億円)の随意契約を含め、防衛省から計117件、約174億6千万円を受注している。
前次官は防衛省の事情聴取に対して、昨年秋までゴルフを続けていたことを認め、「いけないと認識しながら、長年の個人的つき合いからやめられなかった」と話しているという。
同倫理規程が、自費であっても利害関係者とのゴルフを禁じているのは巨額の防衛装備の契約が不正にゆがめられるのを防ぐためだ。
しかし、今回浮上してきた前次官と山田洋行の癒着ぶりは、防衛省全体の規律が緩んでいることを示すだけではなく、契約が不正に行われたのでは、との疑念を持たれても仕方がない。
前次官は定年を延長して異例の4年以上も次官を務めた「防衛省の大物」で知られる。行政の権力者に見返りを求めて業者がすり寄る汚職の構図は過去にも数限りなく、証人喚問でも徹底した追及が求められる。
■不都合な事実隠ぺい■
給油活動を継続するための新テロ対策特別措置法案が衆院で審議入りしたが、野党側は審議を始める前提として前次官の証人喚問を要求。与党もこれに応じることを決めた。
前次官の癒着問題は新法案の中身とは直接関係はないが、防衛行政に対する信頼回復には不可欠だろう。
防衛省をめぐっては、海自補給艦が03年2月に米補給艦に給油した量の訂正問題で、海自の担当課長が同年5月に誤りに気づきながら上司に報告していなかったことも明らかになった。
ここで悪質なのは「燃料の転用問題が沈静化しつつあったことを考慮」して報告を怠ったことだ。イラク戦争への転用疑惑は給油活動の根幹にかかわる問題で、文民統制をないがしろにする極めて憂慮すべき事態だ。
新法案の審議は、わが国の今後のテロ対策の在り方を議論する大切な機会であり、審議に当たってはこれらの問題も解明し、情報が国民に正確に提供されることが大前提である。
給油活動に関しては、過去に別の補給艦の航海日誌が破棄されていたことも問題になっている。これも単なる過失ではなく、不都合な事実を隠したままテロ特措法を延長しようとしたのでは、との疑念さえぬぐえていない。
福田康夫首相は政権発足の際、「政治や行政に対する信頼を取り戻すことが喫緊の課題」と強調した。今やるべきことは、前次官の癒着、不透明な海自活動を徹底して洗い出すことだ。
目的同じ事業は一本化し臨め
県内でも広く見られるように、減反政策などの影響で農業地域、中山間地の元気がなくなっている。
また郊外への大規模店進出のあおりを受け、中心部の商店街が寂れていっているのは、本県のみならず全国の地方都市で見られる現象である。
先の参院選の結果にも反映したテーマだが、構造改革や三位一体改革などによって疲弊した地方の再生は、国政の最重要課題に浮上してきた。
こうした流れを受け、地域の活性化や地域間格差に対応する政府の「地域活性化統合本部」が発足した。
11月中に地域再生戦略をまとめるが、実効性ある内容にしてほしいというのが地方の切なる願いだ。
■4本部統合して発足■
地域活性化統合本部は、小泉内閣時代につくられた「地域再生」「都市再生」「中心市街地活性化」「構造改革特区推進」の4本部を統合した。
参院選の自民党惨敗を受けて福田内閣は地方再生を「最重要課題」と位置づけ、福田康夫首相を本部長に全閣僚が参加、本格的に動き始めた。
副本部長で地方再生担当相を兼ねる増田寛也総務相が戦略とりまとめの中心になる。
増田総務相は自ら地方に出向いて、首長や農林漁業関係者らから直接意見を聞く「くるまざ対話」を始めた。
初回の島根県では、集落の維持が困難な「限界集落」の実情を聴取。長野県では市長らが高卒の若者が流出する実態を語り、若者が働ける付加価値の高い産業振興の必要性を訴えた。
本県でもそのまま該当する問題だ。 総務相は岩手県知事時代、公共工事を削減する一方で農林水産業の振興に力を注ぐなどした実績がある。総務相に対する地方側の期待は大きい。
■税収格差是正も焦点■
小泉内閣の構造改革では、公共工事が大幅に削減された。このため本県のように他に主要な産業がなく、公共投資に依存する割合が高い地域ほど疲弊の度合いが激しくなっている。
これまで地域再生、都市再生という対策本部が相次いで発足、小泉内閣から安倍内閣に引き継がれた。だが、目立った効果は見られない。
都市再生事業のおかげで、巨大開発が立て続けに行われた東京で一極集中が進む皮肉な結果も生まれた。
効果が挙がらなかった要因は、各本部の業務内容が似通っていたり、事業が国土交通、経済産業、農水、総務といった各省縦割りで行われていたことが大きい。
また省庁は規制緩和に消極的で、地域の実情に合った事業展開がやりにくかったことも響いている。
こうした反省に立って地域再生戦略では、目的が同じなら各省事業を一本にまとめて予算化するという思い切った対策を講じるべきだ。
民間の発想を生かし、地域独自の活性化策に努めることも重要である。
地域間の税収格差是正も大きな焦点になる。増田総務相は、東京に集中して税収格差が顕著な地方法人関係2税を国税とし、偏在が小さい消費税の一部を地方消費税に回すことで格差を是正する意向を示している。
東国原知事も地方に回すという前提で消費税の税率アップに言及しているが、地方には歓迎する向きも多い。
こうしたことが本当に実現するのかどうか。地方重視を強調する福田内閣の本気度が試されることになる。
早期完成へ認識を共有したい
4年後の2011年の話。鹿児島中央駅を一方は九州新幹線、一方は日豊線の列車が同時にスタートした。
約4時間後どうなっているか。
九州新幹線、山陽新幹線経由の列車はなんと新大阪に到着している。日豊線経由の方は、ようやく本県を抜けたばかり。大分県佐伯市近くである。
もちろん列車の速度が違うので単純に比較はできない。しかしこのような現実を突きつけられるのは悔しい。
同年春の新八代―博多間の開業に伴い九州新幹線が全線開通する。JR西日本とJR九州はこれに合わせ、山陽新幹線の新大阪から博多を経由、鹿児島中央までの直通運転を開始することで合意した。
■拡大する交通網格差■
複線化すらままならない本県の状況を考えると、新幹線は夢物語でしかない。交通網の地域間格差も次第に拡大している。特に東九州軸の交通網と、西九州軸の交通網整備を比較すると顕著である。
だからこそ北九州市を起点に大分、津久見、延岡、宮崎、日南、串間市を抜け鹿児島県志布志、鹿屋、鹿児島市までを結ぶ436キロの大動脈、東九州自動車道の開通を1日でも早くしたい。
県内では清武―西都10キロ、門川―延岡南(国道10号延岡南道路)4キロ、延岡南―延岡(国道10号延岡道路)の一部20キロが既に開通している。
さらに2010年度開通予定の西都―高鍋(高鍋工事区)の用地買収、文化財調査、工事発注率は98―99%、2012年度の高鍋―都農(川南工事区)でも用地買収は97%に達している。
県北の門川―日向も用地買収率97%。日向―都農の買収も始まった。事業主体が国交省となる県南清武―日南でも工事に着手した。
■官民一体の活動展開■
清武―延岡南の事業主体は西日本高速道路株式会社(ネクスコ西日本)。この区間、約90キロは2014年度には開通の見込みだ。工事遅延の原因の1つであった補償金目的の植栽行為が40カ所残っているが、高鍋工事区の2カ所は自主的な撤去がなければ今後一定の手続きを経て、強制収用が可能になった。こんな足引っ張りの行為は論外であり、適切な措置を迅速に講じてほしい。
県高速道対策局資料では延岡市から宮崎市までの所要時間は2時間25分。東九州道が開通すれば1時間を切る53分と見込む。延岡―大分も1時間以上短縮する59分。一般道路利用の所要時間と比べ、大幅な時間短縮が可能である。
将来的には延岡が東九州の交通網の基軸ともなり得る。
地域間競争は避けられない。しかし競争にはインフラ整備が平等に行われていることが、最低限の条件だろう。新直轄方式で整備される北川以北の早期完成を国に強く望みたい。
一方で県内には、高速道整備がこれからの地域と既にある程度進んだ地域間に温度差がありはしないか、気掛かりだ。「交通網整備は県民みんなの問題、課題」の意識を共有していきたい。整備促進を訴えての官民一体の活動を積極的に展開したい。国を動かすためには「声を大にする」しかない。
道州制論議も、次第に本格化している。再び「陸の孤島」にならないために、本県を埋没させないために、その必要性を訴えていこう。
「民」の視点から「官」に切り込む
税金の使途について、官・民の立場ではその評価が大きく食い違う。
行政は現在の事業の必要性、継続性を訴え、納税者としての民の側はその緊急性、費用対効果を問う。
県が行っている事業に対し、廃止を含む厳しい見直しを迫った県事業仕分け委員会(浜野崇好座長)の中間提言で、その違いは明確に示された。
県財政逼迫ひっぱくの折、歳出(事業)の見直しが必要なことは言うまでもない。県議会の海外視察に批判が殺到したように、税金の使われ方に県民が今ほど敏感に反応する時代はない。
ただ、住民サービスの低下は「公共性」の足下を脅かす。どこまで切り詰めるか、県民の論議を深めたい。
「現状」容認はわずか
同委員会の提言がどれほど厳しかったか、その中身が雄弁に語る。
検討した133事業(第一期分)のうち、「現状」でよしとされたのはわずか25件(18%)で、「不要」2件、縮小や外部委託などの「改善」が必要は百件(75%)に上った。
もちろんこれは「決定」ではない。だが、有識者や公募を含む委員会(24人)の「民」の視線が、従来の県の事業に極めて懐疑的であることは知っていなければならない。
もともと県事業の見直しは、財政再建が不可避な状況下で庁内でも進められてきた。ここ数年の予算のマイナスシーリングはその結果である。
ただ、これまで継続した事業を中断または縮小するのは、各部局で担当してきた当事者からすれば難しい。また県議会も、予算の全事業に目を配るのには限界がある。
委員会設立の目的は、従来の予算配分システムと発想に、外部から大胆に「切り込み」を図る意図だった。
予算の「出」の部分に民が介入するのは画期的なことであり、その結果が影響を与えるのは間違いない。
地域社会の「公」の役割
「不要」あるいは「改善」の余地あり、などと指摘された事業は、ほとんどが補助金絡みである。
委員会は「地域生活、福祉保健等」部門など3班編成だが、いずれの班でも補助金の在り方、必要性をめぐって委員の厳しい点検が続いた。
事業のサポート役として民間団体などに交付される県の補助金の費用対効果、時期はいつまで…。
補助金の当否は、その当該事業主体が「自立」する誘因になっているか、逆に官への「依存」体質を強めていないか、が分岐点といえる。
慣行による継続や、既に役割を終えたと思える事業への交付を、県民が容認するはずがないのである。
ただ、財政は削減だけが目的ではない。目に見える利益や効果だけを追求すると、地域社会における「公」の役割の根幹が崩れることにもなる。企業会計と異なる点だ。
また行政のスリム化を急ぐ余り、構造改革路線以来の「官から民へ」の圧力が過度になれば、行き着く先は住民サービスの低下しかない。
地域の公共性をいかに担保し、その受益と負担の整合性…。行政と委員会に課せられた使命は小さくない。
同委員会は今後、残された第2期分の事業を検討し、提言は来年度予算編成に反映されることになる。
東国原知事が抱えた財政再建・県勢浮揚という困難な課題を、県民総力戦で共有する時代の到来である。
努力の結晶本県の貴重な財産
今ほど地方の在り方が問われる時代もない。地方分権改革に向かい、地方自らの力量が今まで以上に試される。
地域に埋もれた歴史、文化、産業資源等々。この宝を掘り起こし磨くことこそが地方の活力の源になる。県内にもそれを実践する人々がいることに「みやざき」の将来に光を見いだす。
県内の各分野で優れた功績を挙げ、県勢の発展に寄与した2個人、6団体にきょう、2007年度(第43回)宮崎日日新聞賞が贈られる。
今年は科学、文化、産業、社会、教育の5部門と特別賞。いずれも長年にわたるたゆまぬ努力が実を結んだ。本県にとって貴重な財産である。
■本県の魅力広く発信■
宮崎は今、全国から注目を集めている。この好機に本県の魅力を広く発信し続けなければならない。
今回、特別賞に輝いた高島屋元社長の日高啓さんは社長就任後の約20年前、東京と大阪の店で宮崎物産展を初めて開催。大都市の消費者に宮崎の良さを伝えるイベントとして定着した。
宮崎市で生まれ育った日高さんは県在京経営者会議の設立発起人でもあり、故郷への愛着と感謝の気持ちを忘れない。ふるさとを愛する心の輪を広げる日高さんらの活動は物産のみならず、本県の人情味あふれる風土も全国の人々に伝えられている。
文化賞の県文化財保護審議会会長の甲斐亮典さんは、教職を引退後、神話や歴史をつづった本など出版。地方史研究に力を注いだ。薄れつつある本県文化を後世に伝える貴重な存在だ。
みやざき骨髄バンク推進連絡会議は社会賞。メンバーはまったくのボランティアで、ドナー登録者増へ手づくりの活動を展開する。「自分たちがやりたいから」と口をそろえ、移植を待つ患者らに希望を与える。より多くの県民が活動への理解を深めたい。
■さらなる活躍を期待■
深刻な医師不足や高齢化。地域医療が抱える問題は多岐にわたる。
教育賞の九州保健福祉大学薬学部。今年3月、最初の卒業生の薬剤師国家試験合格率は全国でも群を抜いた。臨床現場で役立つ薬剤師の育成に力を入れている。薬剤師が担う役割はますます大きくなっている。
県総合農業試験場茶業支場は、害虫の無農薬防除法確立と抵抗性のあるわせ品種「ゆめかおり」開発などが評価され、産業賞に輝いた。
害虫クワシロカイガラムシは薬剤散布などで経済的、労力的負担で生産者を苦しめてきた。環境に配慮した防除法は広く注目されそうだ。
同賞のもう1団体は近年、漁獲量の減少が続いていた高級魚・カサゴの資源管理研究チーム。安定した稚魚の生産技術を開発し量産体制を確立した。
高い収益が見込める魚種として、資源回復が望まれていただけに漁業者にとって大きな成果となった。
科学の分野における県内の活躍も近年めざましいものがある。
科学賞の宮崎大学光科学研究グループは自然界には存在しない真空紫外光の光源開発で研究成果を挙げ、半導体製造など産業面に生かされている。
DNA鑑定で全国トップの実績を誇る県警刑事部科学捜査研究所法医部門も同賞を受けた。ミトコンドリアDNA鑑定の研究も進めている。今後、捜査の迅速化への貢献が期待される。
各受賞者・団体の地道な努力に敬意を表し、さらなる活躍を期待する。
憲法と絡む国際貢献問い直す
今国会最大の焦点である対テロ新法案が閣議決定された。国会で民主党など野党との本格論戦が始まる。
国会の焦点であるばかりか、憲法とも絡むわが国の国際貢献の在り方を根底から問い直す法案でもある。国民的議論にしなければならない。
政府提出の新法案は、インド洋での海上自衛隊による給油活動を継続するため、11月1日で期限が切れるテロ対策特別措置法に代わるものだ。
これまでも代表質問、予算委員会で与野党が議論を戦わせてきた。
だが、日本の給油が目的外のイラク戦争に転用された疑惑はまだ消えていない。今後の審議で解明が必要だ。
■小沢氏発言で新展開■
新法案をめぐっては、論議の途中から新たな展開をみせてきた。
小沢一郎民主党代表の「給油活動は違憲だが、アフガニスタン本土で活動する国際治安支援部隊(ISAF)には参加できる」という発言である。
与党側は審議の過程で小沢氏の主張をやり玉に挙げ、国民の中にも給油活動より危険度が高いISAF参加に懸念を抱く向きは少なくない。
民主党は、政府の新法案に対抗する対案を検討中とされる。与党の批判に応えるためにもぜひ実現すべきだ。
小沢氏の主張を含め、民主党対案と新法案のどちらが望ましいか、国民に分かりやすい形で日本の国際貢献の在り方を議論してほしい。
新法案は、海自の活動を海上阻止活動に当たる米軍などへの給油と給水に限定している。
派遣期間は文民統制(シビリアンコントロール)を重視する公明党の主張を入れて「1年」にした。
法案に具体的活動が盛られており、その成立がすなわち国会承認になるとの理由で、国会の事後承認規定は削除されている。
■政府は疑惑を晴らせ■
だが政府、与党の本音が、与野党逆転の参院で承認されない事態を回避することにあることは明らかだ。
周辺事態法やイラク復興支援特別措置法などの国際緊急援助隊の派遣を除き、自衛隊の海外派遣に関する個別法には国会承認が盛り込まれている。
あえて外したことに別な意図があると受け取られても仕方あるまい。
新法案の審議に当たって政府がまず行うべきは、これまで指摘されてきた疑惑を晴らすこと以外にない。
米補給艦を通じて日本の給油を受けた空母キティホークや、海自が直接給油した米イージス艦がイラク戦争に参加したなどという指摘があった。
また海自の補給艦が内部規則に違反して、航海日誌を五カ月分も廃棄していたことも新たに判明。「証拠隠し」の疑いも浮上している。
民主党などの主張のように、海自の給油活動やアフガンでの多国籍軍の活動内容などの詳細が明らかにされないままでは、十分な論議はできない。
あくまで政府が公開を渋るなら、国政調査権による記録の提出要求も選択肢の一つだろう。
一方、小沢氏の主張にも危ういものがある。武力行使はもちろん、国連決議が日本の主権を超越するかのような論理はあまりに現実離れしている。
新法案は海自の活動中断を挟んで審議される。与党が衆院再議決という強行手段で成立を目指すのかどうか。
先行きが不透明な中で、非難の応酬ではない建設的論議を望みたい。
強権的な報道規制に不安残す
奈良県の医師宅放火殺人の供述調書漏えい事件で、奈良地検はフリージャーナリスト草薙厚子さんに調書や鑑定書を見せたとして長男の鑑定を行った精神科医崎浜盛三容疑者を逮捕した。
少年の更生・保護を図る少年法の趣旨に反する行為で、証拠の外部への漏えいを断固許さないとする検察当局の強い姿勢が見受けられる。
だが、少年事件では犯行に至るまでの経緯や背景などを報道によってえぐり出すことで、不幸な出来事から教訓をくみ取る社会的な意義もある。
情報提供者の逮捕は、憲法で保障されている言論の自由を侵す恐れがあり今後、論議を呼びそうだ。
■人権侵害厳しく対処■
放火殺人事件は昨年6月に起きた。医師宅が全焼して妻と二男、長女が死亡。当時高校1年の長男が放火と殺人の非行事実で家裁送致された。
今回逮捕された医師は同年8月、奈良家裁から長男の鑑定医に選任されたが、家裁から渡された長男の供述調書を見せたほか自ら作成した鑑定書の写しを草薙さんに渡した。
業務上知り得た秘密を漏らした秘密漏示容疑ということだ。
草薙さんは今年5月、調書を多数引用した「僕はパパを殺すことに決めた」(講談社)を出版。奈良地検が共犯に当たるとして草薙さんを立件する可能性もあり、注視せざるを得ない。
今回のように医師が業務上知り得た秘密を漏らしたとすれば、それは刑法違反の可能性は十分ある。東京法務局が講談社と草薙さんに再発防止を求めて勧告したのも、人権侵害に当たり放置できないと判断したからだろう。
ただ、今回の逮捕はそうした自主規制を求める対応とは大きく異なり、強権的に報道を封じ込める不安もある。
■報道の仕方に問題も■
鑑定医は逮捕前の事情聴取に対して「あんな形で出版されるとは思わなかった」と話しているという。草薙さんの報道の仕方に問題もあったようだ。
情報源について草薙さんは記者会見で「Aさんという人から許しを得て捜査資料の開示を受け、その一部をカメラで撮影した」と話している。
大量の資料の撮影を鑑定医はどこまで了承したのか。著書で公表することの了解は得ていたのか疑問が残る。 その上で今回のような事件で、明らかに取材源が特定されるような報道はあってはならないが、特定できてしまった。筆者はもちろん、出版社も深刻に受け止める必要がある。
しかし、今回の報道で草薙さんらに過ちがあったにしても報道の自由を軽視してよいということにはならない。
検察当局は「逮捕は真相解明のため必要だった」と説明している。
確かに本の出版ではプライバシーを大きく侵害した恐れはあるし、父親と長男から告訴も出された。だが、これまではプライバシーを暴露するなどの報道被害が起きた場合、名誉棄損の訴えなどを通じて主に民事訴訟の場で解決が図られてきた。
それらに比べると今回、任意の事情聴取にも応じ、逃亡の恐れなどもない鑑定医の逮捕は大きく一線を踏み外したと言わざるを得ない。
捜査機関が今後も報道による被害を刑事事件として取り上げるならば報道、取材が委縮する恐れもある。
公権力による過剰な規制は結果として国民の知る権利を妨げる。捜査当局には熟慮と慎重な対処を求めたい。
自白偏重を断ち切り導入急げ
別の事件の逮捕者が犯行を自白したため、すでに刑期を終えた富山県の柳原浩さんが再審を求めた富山冤罪えんざい事件で、富山地裁高岡支部は柳原さんを無罪とする判決を言い渡した。
罪のない人への処罰は1人でもあってはならないことで、今回の事件捜査では警察が自白を無理やり引き出す強引な取り調べが問題となった。
検察だけでなく弁護側、裁判所ともその誤った捜査を見抜けず、取り返しのつかない結論を出してしまった。
こうした冤罪を生む土壌をなくすには、容疑者の取り調べの様子を録音・録画する「可視化」の早急な実施は避けられないのではないか。
■導入に警察庁消極的■
重大な事件の刑事裁判に一般の国民が参加する裁判員制度は1年半後にスタートする。制度実施を控え、新しい刑事手続きのあり方を検討する最高裁、法務省、日弁連の法曹三者の協議会に警察庁も参加するようになった。
この協議会は2004年に設立され、半年に1回程度開かれてきた。また、その下部組織の幹事会は2カ月に1回開催される。ここに警察庁も参加することを要請された。
今後、「新たな時代における捜査手続きのあり方」が議論されるが、これを機会に可視化の本格的な導入検討が進むことを期待したい。
だが、今のところ警察庁は可視化の導入に消極的な姿勢は崩していない。
「捜査は取調官と容疑者の間に信頼関係がないと核心に迫れない。録音・録画されると信頼関係構築が困難」「容疑者が報復を恐れ、供述が得られない」などが反対してきた理由だ。
しかし、自白の強要は富山の事件だけでなく鹿児島で起こった公選法違反の冤罪事件でも警察官による密室での拷問が問題になっており、もはや第三者によるチェックは不可欠だ。
■信頼揺らぐ刑事司法■
富山事件を振り返ると、警察の取り調べで柳原さんが否認したにもかかわらず警察はしつこく自白を迫った。
検察官も柳原さんのアリバイすら見逃し、自白の不自然さに気付かなかった。裁判でもそれが通ってしまった。鹿児島の事件と同様、自白に頼る捜査、裁判の欠陥が露呈された。
両事件で最高検は問題点を検証した報告書を公表。「自白の信用性については慎重に検討する必要があった。吟味が不十分だった」と認めている。
個別の事件で最高検が報告書を公表するのは極めて異例で、捜査当局に与えた衝撃の深刻さがうかがえる。
刑事、司法に対する信頼が大きく揺らぐ中、事件捜査の手法、書類作成の方法など抜本的に見直しが必要だ。
たとえば裁判員裁判では、検察と弁護側の間で「自白調書が信用できるかどうか」が争点になった場合、法律家同士のやりとりから一般の裁判員が判断するのは難しいだろう。
このようなときに録音・録画による取り調べの様子が自分で確認できれば、かなりの部分が解決できる。
最高検はすでに東京地検の一部の事件で録画の試行を始めている。強制による自白ではないことを立証するのに役立てる趣旨だ。警察当局も客観的証拠に基づく捜査に徹し導入すべきだ。
可視化は自白偏重を断ち切り、無実の人が処罰されることがないよう刑事司法を変える上で大きな意味がある。導入を急ぎ、従来型の捜査から脱皮するきっかけにしてほしい。
再生の鍵握る新たな魅力創造
全国各地の中心市街地は大きな購買力、集客力を有する郊外型の大型ショッピングセンター(SC)などとの競争から衰退が叫ばれて久しい。
こうした中、宮崎市の中心市街地では、「自分たちの街に魅力があれば共存、発展は可能」との発想で若い商店主らが「街づくり組織」を起こし、再生に取り組んでいる。
同市では5月に中心市街地活性化基本計画が国の認定を受け、地域が主体的に行う街づくり活動に国からの支援が得られやすくなった。
文化活動を通じたにぎわいの創出や楽しめる商業空間形成などが地域活性化の核となることを期待したい。
大型SCとすみ分け
国の認定は中心市街地活性化法に基づき県内自治体では初めてとなった。
計画は官民で取り組む多くの事業で構成され、街のにぎわい創出に向けて年間歩行者数や居住人口、そこで働く人の大幅増加などを目指している。
注目される民間活動がある。同市橘通3丁目周辺地域では、7商店街と複数の大型店を含むエリアを一つのショッピングモールと見立てて、若い商店主らが独自の事業を展開する「Doまんなかモール委員会」だ。
結成は一昨年4月で、当時同市では、この中心市街地から東に約3キロの場所に南九州で最大規模の巨大SC出店構想が明らかになり、市民を巻き込んだ賛否論争が繰り広げられた。
結局、同SCは一昨年5月にオープンして以来、現在も家族連れや若者層の集客を維持している。当然、中心市街地では出店反対の声が強かったが、出店がほぼ固まった状況から発想の転換が図られるようになった。
歴史ある中心市街地に新たな魅力、文化を根付かせ、差別化を図る取り組みだ。SC出店の危機感を街づくりへのエネルギーに変え、店主らが能動的にかかわるようになったのは強みだ。
多彩なイベント企画
同委員会活動のリーダー・村岡浩司委員長は「街の活性化の定義は、にぎわい、人通り」と言う。そして本来、商店街が持っていた地域コミュニティーの再生が欠かせないと訴える。
確かに個の集まりである商店街に住む人、店を営む人、そして訪れる客のきずなが深まり、互いが自分たちの街として誇れることが街づくりの重要な要素となってくるだろう。
同SCのオープン当初、確かに心配された同中心市街地周辺の歩行者数は大幅に落ち込んだ。
しかし、同委員会に集うメンバーらはエリア内の大型店のリニューアル増床なども街再生のチャンスと捉とらえ、共存に向けこの2年間さまざまな手作りイベントを企画し人集めに努力した。
日曜朝市、音楽演奏会、まちかどギャラリー、ファッションショーなど多岐にわたり、初年度103回、2年目は168回に及んだという。
そこには商店主だけでなく学生やNPO関係者らも加わり、個々の商売から一歩抜け出し、その地域に新しい文化を創つくり出す取り組みとなった。
これは買い物目的の客以外の人も呼び込む大きな魅力となり、市民を巻き込んだ街づくりは同委員会が目指す人通り、にぎわいにつながった。
発足から3年目を迎えた同委員会の今年の基本理念は「発見・感動あふれる街」だという。そこに住む人、商店主、訪れる客、みんなが愛着を持ち主役になれる街の再生が楽しみだ。
議員は民意との落差見誤るな
ここ数日の本紙「窓」面をご覧いただいただろうか。県民の怒りの声が沸騰状態になっている。
県議会議員が11月に計画しているドイツ、フランス、イタリアの欧州3国への視察に対する反発である。
その中身は、表現のニュアンスは異にしながらも「厳しい財政難の折、なぜ県費の補助を受けてまで行く必要があるか」という憤りに尽きる。
海外視察の県費負担は総額約1千万円。官民総倹約時代の中、高額の助成が許される視察に県民は「議員特権」のにおいを敏感に嗅(か)ぎ取っている。
議会改革に県民の厳しい視線が注がれているのは周知の事実。県議会は民意との落差を見誤ってはいけない。
■節約の中の高額補助■
議員の中には、今回の県民の反発に「どうしてこんなに騒ぐのか」といぶかっている向きもあるだろう。
海外視察は恒例行事で既に予算化されており、正当な理由と目的もある。グローバル時代に国際的な見地から政策を学ぶことは不可欠である、と。
もとより議員の研修、政策鍛錬の機会を否定する県民はいまい。むしろそれを土台にして、議会での活発な政策論争に資することを望んでいる。
だが、今回の県民の批判と反発の理由は、その視察研修の在り方への疑問と同時に、1人当たり100万円(上限)という県費負担の大きさにある。
県民1人当たりの借金が約80万円に上る膨大な県債残高にあえぐ県財政の逼迫(ひっぱく)と、東国原知事の登場で県民の間に高まっている改革機運は、県議会でもよく承知のはずだ。
行政のみならず高齢者から病気・障害者、年金生活者など県民等しく身を削るような節約を強いられている中、議員だけに許される高額の補助。
■信頼されぬ自助努力■
例えば「窓」に寄せられた主婦のこんな声にどう答えるのだろうか。
「毎月の給料がわずか十何万円で細々とあくせくしながら働いている。その1年分の金が1人当たり100万円ぐらい使われているとは、本当に腹立たしくなってくる」(12日付)
県議会の重要性は論をまたない。だが、その役割の大きさと議員の仕事ぶりに落差があると思われていること自体に、この問題の根深さがある。
議員には不本意かもしれないが、県議会定数や政務調査費問題などが象徴するように、議会が自ら率先して改革に立ち上がる「自助努力」を、残念ながら県民は信頼していない。
議会改革は常に世論、県民批判の圧力によって「仕方なく」行われてきた消極性をよく知っているからだ。
今回の海外視察に、県民がそれらと同様の議員の「既得権益」を感じ取ったことは想像に難くない。
県は先に民間からの意見を吸い上げるため「事業仕分け委員会」を設置、予算の歳出に関して徹底した事業見直しの作業を続けている。
だが、委員会に提示された検討項目に、今回の海外視察費はじめ県議会関連は含まれていない。議会が自主的に歳出削減を申請するのを待つという、事実上の「聖域」と化している。
財政難を理由に、海外視察の県費負担を廃止した県議会が少なくないことを考えれば、本県の対応が県民から注視されることは間違いない。
世論の沸騰は地域民主主義の健全な姿である。県議会は民意がどこにあるか、冷静に見定めなければならない。
拉致解決急ぎ外交孤立避けよ
政府は北朝鮮に対する同国船籍船舶の入港全面禁止や全品目の輸入禁止など、あす期限が切れる日本独自の経済制裁を半年間延長する方針を固めた。
今年4月に続いて2回目の延長となるが、政府は「拉致問題で具体的な進展がない。核問題をめぐる情勢を総合的に勘案した」としている。
日本にとって対北朝鮮で最も重要な課題である拉致問題で進展がない以上、制裁延長はやむを得ない。
ただ、北朝鮮は六カ国協議の合意に基づき非核化プロセスに踏み出し、各国の対応も転換期を迎えている。日本政府も次の展開に備えて戦略を練っておく必要がある。
■対日姿勢軟化の兆し■
現在の経済制裁の発端は、昨年7月の北朝鮮によるミサイル発射で、政府は特定船舶入港禁止特別措置法に基づき貨客船「万景峰92」の入港禁止などの制裁を発動した。
さらに同10月の核実験を受けて、船舶入港と輸入の全面禁止や高級食材の輸出禁止など追加制裁に踏み切った。
福田康夫首相は就任後、北朝鮮対応について拉致問題解決を含め「不幸な過去」を清算し「日朝国交正常化を図るべく最大限努力する」と述べていたが、拉致や核問題の進展には引き続き「圧力」が必要と判断した。
だが、これまで日本に対し強硬姿勢を貫いてきた北朝鮮にもわずかながら軟化の兆しが表れている。
たとえば9月にモンゴルで行われた日朝国交正常化作業部会では今後、日朝双方の関心事について誠意をもって協議していくことが確認されている。
一方で北朝鮮の金正日総書記は先の南北首脳会談で「(日本は)福田政権に代わったので日本の状況を見守る」と発言、日本の出方を探っている。
日本政府は目まぐるしく動く北朝鮮情勢への細かな目配りが必要だ。
■核全面放棄向け進展■
北朝鮮は核施設の無能力化やすべての核計画の申告を実施することなどを定めた6カ国協議の合意文書に基づいて、核の完全放棄に向けた動きをみせ始めている。
米国はこの見返りとして、北朝鮮のテロ支援国家指定解除の動きをみせている。具体的な時期については示していないが、北朝鮮の行動と並行して解除に向けた作業を進めることが合意文書に盛り込まれている。
日本があくまで拉致問題にこだわるのは当然だ。しかし、六カ国協議では同時に核、ミサイル問題の包括的解決を目指すとしている以上、日本はこれらの問題の進展にも備えておかなければならないだろう。
北朝鮮の非核化に向けた動きに対しては同国を除くほかの国はエネルギーや人道的支援を行うことになっており中国、韓国はすでに実施している。
こうした状況で、六カ国協議のメンバー国から日本に一定の「受益者負担」を求められた場合にどう対応するのか難しい判断を迫られる。
拉致問題が進まない限りいっさいの支援を行わないとする従来の姿勢をどこまで押し通せるのか。
日本政府は刻一刻と変化する北朝鮮情勢を見極め、拉致問題解決であらゆる可能性を探る必要がある。北朝鮮により具体的な働きかけを行い一刻も早く成果を引き出す努力をすべきだ。
そうでなければ、進展をみせる国際社会の対北朝鮮外交で日本が孤立してしまうことになりかねない。
凍結では問題解決にならない
これも参院選大敗の余波だろう。
自民党と公明党が、来年4月から予定されている高齢者医療制度の一部を凍結すると言いだし、プロジェクトチームを立ち上げた。
第2回会合が9日開かれ、凍結期間は一定期間、財源はシーリング枠内では困難、などの論点整理をした。
だが、「またか」という印象だ。選挙を挟んでその場しのぎで有権者の歓心を買おうとするのは、年金制度改革を先送りしたのと同様である。
財源が何であれ、いずれ納税者の国民が穴埋めしなければならない。
後始末を納税者に押しつけ、選挙の駆け引きに利用しようというのは、政権政党のやるべきことではない。
■財源約1000億円■
凍結されるのは、70―74歳の窓口負担引き上げ(1割から2割へ)と、75歳以上の被扶養者からも保険料を徴収する案だ。いずれも来年4月からの実施が見込まれている。
窓口負担は「現役世代の負担を軽くするため、応分の負担をお願いする」との政府の方針に沿って決まった。
現役世代並みの所得の高齢者は既に現役と同じ3割を負担している。
また75歳以上については、今の制度が廃止されるのに伴い、新しい後期高齢者医療制度に加入する。
新制度の特徴は、75歳以上になると、夫に扶養されている妻であっても、一人の加入者として夫とは別に保険料を払わなければならなくなる。
いずれも「高齢者に重い負担を強いることになる」と国民の間から強い反対の声が上がったが、与党側が正面から「反対」を唱えたことはない。
ここに至って「高齢者に配慮した」では、主張として筋が通らない。
これらを凍結しても、かかった医療費は病院などに支払わざるを得ず、探し出した財源で凍結分を充当させることになる。国と地方自治体で約1千億円が必要になりそうだという。
■補正予算で財源処理■
これまでも与党が選挙目当てに負担を先送りするケースがあった。その典型が公的年金制度改革であり、財政危機と年金不安の一因にもなった。
世代間の扶養で成り立つ今の年金制度は、経済成長や人口構造などに影響されるから、保険料を段階的に引き上げることが必要だった。
だが、保険料引き上げを決めたにもかかわらず自民党が引き上げをストップさせた。その結果、年金財政がますます悪化し、国民の間に制度不安が広がったことがある。
前回の2004年改正で結局、年金給付水準の引き下げと、保険料の段階的な引き上げなど厳しい財政調整に踏み切ったのは、そのときの先送りされたツケが回ってきたためもある。
今回の凍結もそれとよく似ている。その場しのぎの印象がぬぐえない。
たしかに対象高齢者にとっては、一時的に負担は減る。凍結を歓迎したい気持ちは分からぬではない。
ただ、目の前の「負担軽減」が後になって大きなツケとなって回ってくることはつい忘れがちになる。財源は補正予算になりそうだが、補正方式がかつてのように財政運営の「抜け道」にならない保証はない。
社会保障というセーフティーネットの範囲をどうするのか。財源をどう調達するか。
制度と財源について、国民が将来的に納得できる抜本論議が必要だ。
契約者保護優先の経営が責務
生命保険各社が保険金や給付金の不払いの9月末時点調査結果を発表した。38社がこれまでに金融庁に報告した不払いは、2001年度からの5年間の合計で約120万件にものぼり、その総額は約910億円。
金融庁は生保からの報告内容を点検し、行政処分の検討に入る。併せて経営責任も追及する見通しだ。
生命保険は、いざというときの私たちの生活の大きな支えとなる大切な仕組みである。
生保各社は自社の利益優先の姿勢を改め、契約者保護の立場に立った経営姿勢に徹し、再発防止と信頼回復に努める大きな責任がある。
■暮らしに不安与える■
金融庁によると、最終的な調査結果を報告したのは大手、準大手、有力外資系など19社。中小生保のうち四社は既に結果が確定しており、ほかに15社がさらに調査を続けている。
今回の報告では今年4月の中間報告に比べ件数、金額ともに3倍近くにまで膨れ上がっている。
この問題は05年に明治安田生命で大量の支払い漏れが発覚したのが発端となった。利益を確保するため「支払い抑制目標」を設け、本来支払わなければならない保険料まで支払いを拒むという自社の利益優先で契約者を軽視した姿勢で業務停止処分を受けた。
その後、他社でも調査を行った結果保険金不払いが相次いで見つかった。このため、金融庁が3回にわたり調査を指示したという経緯がある。
生命保険は、年金と同様に私たちが暮らしていく上でまさかのときに備える重要な仕組みだ。保険金不払いは、納付記録が宙に浮いたまま放置された国民年金の記載漏れや損害保険の不払いとともに日常の暮らしや老後に不安を与えるもので官、民のセーフティーネットの不備を象徴するものだ。
■複雑すぎる商品設計■
損保の不払い問題では05年の最初の各社の調査があまりにずさんで、金融庁の調査に関する指示もあいまいだったため、問題が長期化して契約者を混乱させる結果となった。
今回生保に金融庁が再三調査を命じたのもこうした背景があったからだ。
調査のたびに件数や金額が膨らんだのには顧客自身の請求漏れも含めるなど調査対象が拡大していったことも一因にはなっている。しかし、保険会社側に顧客の権利を守るという最も大切な姿勢が欠落していた。
生命保険は加入の際には会社の担当者が何度も足を運び話を進めるが、いざ保険金の請求、支払いの段になると契約者自らが複雑な手続きをしなければならないというのが実情だ。
確かに保険会社側にしてみれば、契約者の通院や治療の事実を細かく把握するのは困難であり、請求主義に基づくとの理屈も分からないではない。
ただ、そこには顧客が契約内容を十分に理解しているというのが大前提になる。だが、現実には一般の客はプロである保険会社の社員と同レベルの知識を持っていない。であれば保険会社には契約後もこまめに注意喚起して、契約者に請求を促す責任がある。
また、客が契約内容を十分理解できるよう複雑すぎる商品設計を簡素化し、いつでも気軽に相談できる態勢を整える必要もあるのではないか。
生保各社にはあらためて契約者の視点に立った再発防止策の構築と、経営姿勢の転換を強く求めたい。
米国参加の削減合意を目指せ
深刻化する地球温暖化の問題で重要な国際会議がニューヨークとワシントンで相次いで開かれた。
気候や生態系に大きな影響を及ぼす温暖化防止に向け、対策を話し合う初の国連首脳級会合と、米国が日本など15カ国と欧州連合(EU)を招いた温室効果ガスの主要排出国会議だ。
いずれもポスト京都議定書の温室効果ガス削減の国際的枠組みを議論するよう各国政府に促した。今回、特に京都議定書を離脱した米国が交渉に復帰する姿勢を示した意義は大きい。
だが、削減義務や目標の設定には各国の利害が複雑に絡むだけに克服しなければならない課題は多い。
■米も日本提案に主眼■
国連本部で開かれた首脳級のハイレベル会合には、国連加盟192カ国のうち約160カ国が参加。温暖化をテーマにこれだけの規模で各国首脳が一堂に会するのは初めてのことだ。
発表された議長総括では、12月にインドネシアのバリ島で開かれる気候変動枠組み条約締約国会議で京都議定書の後継枠組みづくりに向けた本格交渉に入るよう強く促した。
また、ワシントンでの主要排出国会議でも米国代表のコノートン環境評議会議長が、温室効果ガス削減の長期目標について「2050年までに世界の排出量を現状から半減させるとの日本提案を主眼に置いている」と述べた。
米政府が長期目標の具体的内容に言及したのは初めてで、温室効果ガスの削減義務がない中国などもポスト京都交渉に取り組む姿勢が見られたことは、今後の議論の弾みになる。
来年7月の北海道洞爺湖サミットでは、これらの国際会合での合意をさらに進め、温暖化対策の枠組み構築へ道筋を具体化しなければならない。
■各国利害複雑に絡む■
京都議定書で削減目標達成を目指しているのは欧州と日本などほんの一部で、その対象は世界の排出量の四分の一にすぎない。特に米国の離脱が響いて効果が限定的になっている。
温暖化は近年の毎年夏の猛暑、気象災害の増加、海水面上昇、水不足など多様な悪影響を地球全体に及ぼし始めている。そして今から、温室効果ガスの排出を抑えても今世紀中は気温の上昇が続くと見られている。
排出削減には経済やエネルギーのシステムなどが絡むだけに各国の利害が対立し、近い将来に約束を設定するのは非常に困難だ。しかし、議論を後退させる余裕はないほど状況は深刻だ。
ポスト京都の枠組み構築で課題の一つは米国の対応だろう。
何らかの義務を伴う削減目標に、世界最大の排出国が参加することがまず何よりも不可欠だ。さらに排出量で米国に迫ろうとする中国やインドなどの排出削減を確実に後押しする仕組みも必要になってくる。
また、先進国の排出により犠牲となっている途上国の支援や温暖化被害の軽減対策も一方で重要だ。併せて新たなエネルギー開発や省エネ技術導入を国際的に進めることも大切だ。
まずは12月のバリ島会議でポスト京都の交渉が本格化する。今後、米政府がどう路線転換するかが鍵となるが、日本の役割はさらに重要になる。
日本政府は先の2つの国際会議では福田康夫首相の誕生と時期が重なり影が薄かったが、これからは議長を務める洞爺湖サミットに向けてこの問題でイニシアチブが求められる。
地域に密着した資源生かそう
古事記、日本書紀、いわゆる「記紀」で語られる神話は高天原たかまがはら、出雲、日向神話である。高天原は天上界の話なので、“地上”の話は日向、出雲だけとなる。
格差の広がる地方と都市圏。一方の代表格、富める東京都が、どんな手段に訴えたところで、神話だけは手に入らない。独自性があり、全国に誇れる、これほどの観光資源を放っておく手はない。
本年度、県も「新みやざき創造戦略」で神話・伝説をメーンテーマとするパンフレット作製や、それらの地を巡る交流・体験の長期滞在メニュー化推進などを打ち出している。ようやく日向神話が脚光を浴び始めた。
■「道具」にされた歴史■
「天皇家の“ふるさと”日向をゆく」の著者、梅原猛さんが「戦前から戦中にかけて、日向神話の事実性が声高に叫ばれた。(中略)国家主義的思想を鼓舞し、神話が軍国主義の道具とされたわけであるが、戦後はそれに懲りて、逆に神話を歴史からまったく切り離してしまったのである」と論じているように、日向神話は不幸な歴史を背負わされた。表だって話される機会も少なかった。
しかし、なぜ「記紀」で日向が天孫降臨の地とされたのか、祓詞(はらいことば)にある「筑紫の日向の橘の小門(小戸)の阿波岐原の」のように、なじみの地名が数多く登場するのかなど興味は尽きず、また日向市美々津地区で旧暦8月1日の夜行われる、神武天皇の東遷神話「お舟出伝説」に由来した「おきよ祭り」のように、地域に溶け込んでいる神話も少なくない。
創造性も豊かである。
「宮崎の神話伝承」(甲斐亮典著、鉱脈社)や県が発行している「ひむか神話街道50の物語集」などで、多くの神話が紹介されているが、日南市鵜戸神宮の亀石伝説、西都市銀鏡のいわれなど、けっこう人間くさくユーモラスな話も多い。
■風土を知る手掛かり■
真実性、「記紀」の作られた背景など、いろいろな議論があるのも確かである。なぜいま神話なのかと問われても、明確に答えることは難しい。
しかし神話の深層をかいま見ることで、宮崎の風土、県民性、文化をあらためて知る手掛かりになるのではないだろうか。
平成17年度の県外観光客数は450万人。県は同戦略で、年5%増で算定した547万人を平成22年度の目標に設定している。
財政的に余裕のない本県。目標達成のために神話は、ある意味、切り札的な存在である。テーマパークなど「つくられた資源」は、開設後のリニューアルをはじめ、常に話題を提供していく宿命があり集客にも限界があるが、神話のように「その地に密着した資源」は、その限りでない。
高千穂町の天岩戸神社、高千穂神社、美郷町の神門神社、西都原古墳群、宮崎市の江田神社、日南市の鵜戸神宮、高原町の狭野神社、高千穂峰など県内の神話・伝説ゆかりの地を南北に結んだ「ひむか神話街道」の基本的なインフラ整備をはじめ残された課題は多い。早急な解消が求められる。
スピリチュアルがブームである。県内にもスポットが数多くある。安易な便乗は禁物だが、人気は急上昇中である。ブームを一過性のものに終わらせないためにも、地域資源の掘り起こしをもっともっと進めたい。まずは神話を知ることも重要な要素である。
まず情報開示、有効性の検証も
今国会の最大の焦点である海上自衛隊のインド洋での給油活動問題が、いよいよ本格論戦の舞台に上がる。
与党が民主党などに、活動継続のためのテロ対策新法案骨子を提出した。骨子段階で示すのは極めて珍しい。
福田康夫首相は、活動継続は「国際的責務」で国益にも資すると強調するが、民主党は根拠となる国連決議がないとして新法にも明確に反対を表明、法案化協議には応じない構えだ。
テロ対策活動への積極的参加に、頭から反対する理由はない。だが、活動継続の前に情報開示など確認しなければならない点がいくつかある。
何が真の国益につながるか。民主党も対案を示し議論を深めるべきだ。
■「イラク」へ転用疑惑■
現行のテロ対策特別措置法は2年間の時限立法だったが、3回延長。活動は約6年にわたる。
しかし、過去の延長審議で活動実態が十分に説明されたとはいえない。
2001年9月の米中枢同時テロを受け、米国は国際テロ組織アルカイダをアフガニスタンの旧タリバン政権がかくまっているとして攻撃した。
この「不朽の自由」作戦には英仏など各国が参加、アフガンのテロ組織掃討とインド洋上でのテロ組織・関連物資の移動阻止行動を続けている。
自衛隊が実施しているのは、この参加各国艦船への補給支援である。
新法案のポイントは、活動内容を給油・給水に限定したことにある。また法律自体に活動内容・地域を詳細に規定する一方、国会承認事項を削除。1年後の国会報告を義務づけている。
指摘したいのは、活動実績の情報が十分に開示されていないことだ。
日本が米軍に提供した燃料が、イラク戦争の軍事作戦に転用されたとの疑惑が浮上している。また防衛省は03年2月の米補給艦への給油量を、最近になって約4倍に訂正した。
政府情報の信用性を著しく損なう。
■国会承認削除に異論■
イラク戦争への転用が事実ならば、活動の根拠が崩れる。議論の前提として徹底した情報開示は不可欠だ。
アフガンではタリバンが勢力を復活させ、治安が悪化している。「不朽の自由」作戦が有効なのか、その実態を厳しく検証する必要もある。
国会承認の削除には、文民統制の観点から与党内にも異論があった。政府は法律自体に活動内容を書き込むことで、新法成立が国会承認に当たるという論理を組み立てている。
だが、防衛出動や周辺事態法の後方支援地域など、自衛隊の重要な活動には国会承認が必要とされている。その整合性をどうするつもりか。
文民統制は先の大戦で軍部の暴走を許した反省に基づく。国会承認は自衛隊の活動範囲に対し、民意を反映した国会の意思を示すことで慎重な判断を確保するための手続きである。
このケースで、法治国家の原則をなし崩し的に変えるべきではない。
民主党は給油支援は憲法違反との主張だ。政権を取れば国連決議に基づいて、アフガン本土で活動する国際治安支援部隊(ISAF)に参加する考えを示している。
一方、給油活動には関係各国が継続を求めており、インド洋は日本の石油の重要な輸送ルートでもある。
こうした観点のほか、変化する国内世論の動向もある。国会は、これらの問題点を徹底的に論議してほしい。
朝鮮半島平和へ不透明さ残る
北朝鮮の平壌で行われていた首脳会談で韓国の盧武鉉大統領と金正日総書記は4日、「南北関係発展と平和繁栄のための宣言」に署名、合意した。
朝鮮半島の平和体制構築に向け、南北首脳が努力、協力していくことを確認し合ったことは大きな前進だ。
今回の首脳会談では、北朝鮮の核問題に対する両国首脳による踏み込んだ話し合いも大いに期待された。
この問題では、北朝鮮の核施設の無能力化やすべての核計画の申告を実施することなどを定めた六カ国協議の合意文書が発表されたばかりだ。
だが、首脳会談では非核化への具体的協議がなかったことは残念だ。
■完全放棄へ一歩前進■
南北首脳は8項目の宣言で6カ国協議の合意履行に努力し、南北の軍事的緊張緩和に向けて11月中に国防相会談を開くことなどで合意した。
今回の6カ国協議と南北首脳会談のそれぞれの合意は、北朝鮮の非核化と、朝鮮戦争の休戦協定状態から平和協定への転換を包括的に進めて平和体制を構築しようというものだ。
特に6カ国協議で北朝鮮の核問題で「次の段階」に合意したことは完全放棄に向け一歩前進といえる。だが、合意文書は無能力化の対象施設などであいまいさもあり、完全な核放棄につながるか疑問も残る。
2000年の金大中前大統領と金総書記との初の首脳会談は、南北関係を劇的に転換させ互いの交流と協力関係を前進させる歴史的なものだった。
だが、今回の首脳会談では韓国内にいまだ北朝鮮の核実験などに対する反発がある中で、核問題の十分な話し合いができる環境になかった。
北朝鮮の核問題は実質的には六カ国協議に委ねられているとはいえ、隣国同士の首脳会談でこの問題がじっくり話し合われるべきだった。
■成果優先で米国譲歩■
6カ国協議では、ブッシュ米大統領は北朝鮮による核実験が行われた今年初め以降、北朝鮮問題を外交成果とするため柔軟姿勢に転じた。そのため、合意を優先して北朝鮮側に譲歩することが多くなった。
対北朝鮮テロ支援国家指定解除でも具体的な時期は盛り込まれなかったが、米朝間で次の措置の履行を受け解除することで秘密裏に合意しているのではないかとの見方もあるほどだ。
米国は、拉致問題が進展しなければ指定解除には反対との日本の立場に配慮する姿勢は見せてきたが、「究極的には米国が決める問題」とも述べている。日本にとっては米朝交渉の過程で拉致問題が置き去りにされる心配があり、北朝鮮の対応も注目される。
今回の6カ国協議の合意文書は議長国である中国の武大偉外務次官が発表。北朝鮮が年内に寧辺の実験用黒鉛減速炉など3施設を無能力化することや、米国主導の専門家グループが無能力化の準備のため近く訪朝することなどが明らかになった。
また北朝鮮が核物質などを移転しないことも再確認された。だが、いまだ北朝鮮がシリアの核開発に協力しているのではとの疑惑も米メディアで報じられるなど、北朝鮮が本当に核を完全に手放すかは疑念も残る。
北朝鮮の核放棄がなされてこそ、朝鮮半島の平和体制が構築されることは言うまでもない。その重要な点が首脳会談であいまいにされた。今後、各国の粘り強い外交努力が求められる。
「ねじれ」生かして論議深めよ
福田康夫首相の所信表明演説に対する各党代表質問で、「ねじれ国会」の論戦がようやくスタートした。
質問のトップに立った民主党の鳩山由紀夫幹事長は、福田首相が掲げる野党との協調路線に対し「談合のような密室協議」だとして拒否を明言。
「自民党・福田内閣か、民主党・小沢内閣か、国民の審判を仰げ」と早期の衆院解散・総選挙を迫り、対決色を鮮明にした。
また鳩山氏は「直近の民意は参院にある」とも力説したが、首相は持論の話し合い路線を繰り返し、解散要求には応じない考えを示した。
野党側の攻勢を協調路線でどこまでかわせるかが攻防の焦点となろう。
■給油活動で対立鮮明■
ねじれ国会で政府、与野党ともに必要になるのは説明能力である。
政府、与党は野党の理解を得るためこれまで以上に情報を開示し、説明する姿勢が求められる。
一方で民主党も、政権交代を目指して政権担当能力を示すには、自らが掲げる政策について説明責任を果たさなくてはならない。
鳩山氏が「国会の場で党首討論を十分にやろう」と呼びかけたのに対し、首相は「さまざまな場で野党と話し合う。党首討論も含め大いにやりたい」と切り返した。
ねじれ国会の効用を生かし、議論をオープンに深めるべきだ。
対立が一層鮮明になったのはインド洋での自衛隊の給油活動である。
鳩山氏は米軍主導の「不朽の自由」作戦を直接規定する国連決議はないと指摘し、政府、与党が検討している新法にも反対を表明した。
イラク戦争への燃料転用の疑惑などを挙げ、自衛隊の活動実績の徹底した情報開示も求めた。
首相は活動の重要性を強調するとともに「可能な限り情報を開示する」と答弁。約束は果たしてもらいたい。
■民主党にも説明責任■
また鳩山氏は、政治資金規正法改正で政治団体の1円以上の支出に領収書添付・公開を義務づけるよう主張。
これに対し首相は、第三者機関による監査制度導入も視野に「与野党で十分議論いただきたい」と述べるにとどまった。
再改正案は与党内で協議が続いており、首相は答弁で踏み込めなかった。だが、早急に結論を出すべきだ。
格差是正や地方再生で鳩山氏は、小泉、安倍政権の構造改革路線を継承した「小手先の修正」では解決できないと批判、「福田マニフェスト(政権公約)」を示すよう求めた。
首相は改革路線の基本を堅持した上で格差是正に取り組むと強調したが、「国民の目線に立った視線」と述べるだけではやはり国民は納得すまい。
一方鳩山氏は、民主党が国会に提出している年金保険料流用禁止法案や、参院選公約に盛り込んだ農家への個別所得補償制度導入などに与党側が賛同するよう要求した。
民主党は参院先議でこれらの法案を可決し、衆院で与党に賛否を迫る構えだが、法案審議では提出者である民主党側が答弁に立つ。
自民党の伊吹文明幹事長は「民主党も参院第一党として責任を分担すべきだ」とけん制し、財源の根拠などを示すよう求めた。
民主党が説明責任を果たせるか、論戦の焦点になるのは間違いない。
歴史歪める検定に信頼はない
太平洋戦争末期の沖縄戦で、旧日本軍が住民に対して「集団自決」を強制したとする教科書記述を削除した文部科学省の検定意見撤回を求める動きが強まっている。
沖縄では「歴史の事実を歪(ゆが)めるもの」として、検定意見撤回を求める大規模な抗議集会が開かれており、ようやく政府内に事実上の記述復活を模索する動きが出てきた。
文科省は教科書出版社からの訂正申請で事態の沈静化を図りたい考えだが、そうしたやり方は小手先の解決策でしかない。教科書に対する信頼を確保するため、これを機に検定制度のあり方をきちんと総括すべきだ。
■史実や学説で対応を■
今回の問題は高校日本史の教科書検定で、「日本軍に集団自決を強いられた」との記述に「沖縄戦の実態について誤解する恐れがある」との意見が付けられ、「追いつめられて集団自決した」と、あたかも軍の関与がなかったかのように書き換えられたものだ。
これをめぐって沖縄で開かれた超党派の県民集会には、約11万人が集い、検定意見の撤回を訴えるとともに記述の回復を求める決議を採択した。
この検定では全国の歴史担当教員や研究者らでつくる歴史教育者協議会も「沖縄県民が体験した歴史の事実を抹殺するもの」と批判、検定意見撤回を求める決議を行っている。
これに対して「沖縄県民の気持ちは私も分かります」(福田首相)として、検定結果公表から半年たちやっと沖縄の声が政府に届いた。
だが、文科省は検定意見そのものを撤回するのは困難として、出版社側からの訂正申請を承認するという形でことを収めようとしている。
ここは正面から検定意見の当否について、歴史的な事実や学説を踏まえて対応しなければ沖縄戦をめぐる争いの火種は残されたままとなる。
■検定過程オープンに■
教科書検定制度は、教科書の記述に関する判断を第三者の教科書検定審議会に委ねることで、政治的な介入を防ぐとしている。
ところが今回の検定では、意見の付け方そのものに疑義があった。
文科省の言い分は「軍による直接の命令があったかどうか不明」というものだ。「強いられて」という表現が、高校生に命令があったかのように誤解されるというものだが、根拠となったのは、当時の守備隊長が「命令はなかった」と起こした民事訴訟だ。
しかし、この裁判はまだ確定しておらず、文科省はあくまで原告側の主張を取り入れているだけだ。
歴史研究の上では、「米軍の捕虜になるな」という命令を受け、手りゅう弾を配った事実があれば全体状況から「軍が強いた」というのが通説だ。
こうした学会の通説に疑義を唱え、未確定の訴訟をもとに教科書記述に反映させるのは無理がある。
歴史教科書の検定における判断の生命線は、多くの体験者らによる証言などに基づいた歴史研究、学説である。そうしたルールを踏み外した乱暴な判断を行えば、そこに政治介入があったと疑念をもたれても仕方がない。
沖縄の県民大会で、ある高校生が「私たちが使う教科書に真実を残してほしい」と訴えている。
未来を担う子どもたちの教科書。その信頼性を高めるため検定の過程をオープンな形に見直すことが必要だ。
顔が見えない「温もりの政治」
一歩間違えば自民党が政権から転落する危機感が覆う中で、どう政治に取り組もうとしているのか。
福田康夫首相の所信表明演説で注目されたのはまさにこの点だった。
首相は、野党が参院で多数を占める「ねじれ国会」を踏まえて、民主党など野党と「重要な政策課題について話し合いながら国政を進める」と話し合い路線を強調した。
また「信頼なくして、どのような政策も必要な改革も実現不可能」として政治や行政に対する信頼回復を「喫緊の課題」と位置づけた。
さらに国民の目線に立脚した「温(ぬく)もりのある政治」に言及し、前政権と一線を画す穏健保守路線を鮮明にした。
■強い暫定政権の印象■
首相の目指す政治が、小泉純一郎元首相の急進的保守路線や、安倍晋三前首相のイデオロギー過剰な新保守路線と異なることは明らかだ。その現状認識は恐らく間違っていない。
しかし演説を聞く限り、新政権の息吹を感じさせるような政策は打ち出せていない。
「政治とカネ」や年金、格差など内政課題にしろ、あるいはインド洋での給油活動継続など外交課題にしろ、首相が取り組もうとしているのは、ほとんどが前政権から積み残されてきた懸案ばかりである。
やむを得ないことだが、そこから福田首相の顔は全く見えてこない。
理由ははっきりしている。小泉政権以来の構造改革で生じた「ひずみ」や「ゆがみ」、あるいは地域間格差など負の遺産への対応こそ、この政権の最優先課題としているからだ。
「国民の立場」に再三言及しているのもその証左といっていい。
当面の危機は温もりのある「繕いの政治」でしのごうという意図が感じられるが、そうであればあるほど「暫定政権」の印象が強くなる。
■前政権の公約に疑問■
首相は演説で、与野党協議で進めたいテーマとして政治資金や年金制度、インド洋での給油活動継続問題などを挙げた。
どれくらい続くか分からない「ねじれ国会」の現実を踏まえ、国政の停滞を避けるためにも、与野党間で重要課題をめぐる協議のルールづくりをしておきたい考えのようだ。
だが、早期の衆院解散・総選挙を目指す民主党は、応じるそぶりさえ見せていないのが実情である。
焦点の年金記録不備問題では「着実な解決」を約束したものの、期限は明示していない。
来年3月までに、宙に浮いた5千万件の年金記録の照合を完了させるとした前政権の公約に疑問を持たせた。
半面、財政規律を乱すような「ばらまき」はしないと明言し、憲法問題に全く言及しなかったことなど、地味だが首相らしい手堅さはうかがえる。
新内閣発足を受けて実施された共同通信社の電話世論調査では、福田内閣の支持率は57・8%と、まずまずの滑り出しだった。
だが、実績に裏付けられなければ支持率はすぐに低下しよう。
首相は「守り」に徹しながら政治不信の嵐が過ぎ去るのを待ち、タイミングをみて衆院解散・総選挙に打って出る意向とみられる。
それまで福田カラーを欠く「繕いの政治」で持ちこたえられるかどうか。今国会での論戦が最初の試練となる。







