社説

2007年09月30日

地方切り捨て懸念抱えた船出

 さまざまに物議をかもしてきた郵政民営化がいよいよスタートする。

 日本郵政公社はあす、持ち株会社である日本郵政と郵便、貯金、保険、郵便局という4事業会社に再編される。

 誕生するのは、従業員24万人を抱える巨大企業集団「JP日本郵政グループ」。劇的な変化である。

 行財政改革の一環として橋本内閣が俎上そじょうに載せてから10年。国鉄、電電公社民営化など1980年代に始まった公営企業の民営化は一応終結する。
 
 ただ民営化後の経営見通しは不透明だ。「ゆうちょ銀行」「かんぽ生命保険」の金融2社は、早ければ3年目の株式上場を目指すとしているが、その体力を付けられるか楽観できない。

■心配な窓口での混乱■
 
 大規模なリストラで地方切り捨て、過疎地の郵便局の統廃合が進むのではないかとの懸念は依然として強い。
 
 また、民間企業として競争力を高める「肥大化」に、金融界などは「新たな民業圧迫」と反発する。まさに四面楚歌そかの船出である。
 
 ゆうちょ銀行には新規の貯金への政府保証は消失。1千万円まで保証というペイオフ制度が適用されるほか、新たに印紙税を負担することに伴い、一部の送金料が実質値上げとなる。
 
 これら他の民間金融機関との足並みをそろえるための措置を除けば、一般の利用客が受けるサービスはほぼ従来通りと言っていい。
 
 しかし、各会社ごとに違った制服の社員が同じ郵便局内に仕切りを設けて混在、会社間のやりとりに委託手数料を払うという複雑な事務処理を行うため、窓口での混乱が心配される。
 
 グループ各社を統括する基幹システムも未完成のままだ。システム統合の失敗から大混乱に陥った2002年のみずほ銀行の二の舞いにならないよう万全を期さなければならない。

■金融機関と競争激化■
 
 そもそも課題が山積する中で見切り発車したのは、民営化の目的と意義についての論議が国民の間で十分に整理されないままだったからだ。
 
 「小泉劇場」で単純な「改革派対抵抗勢力」という二分法がまかり通り、「初めに民営化ありき」で政府が押し切ったのが最大の原因だった。
 
 ともかく形を変えれば中身は後からついてくる…。そんな乱暴な発想に国民が不安を覚えるのは当然である。
 
 インターネットの普及などで郵便事業の将来は険しい。その分銀行、保険分野の拡大に活路を見いだすしかないが、既存の民間金融機関との激しい競争が控えている。
 
 特に国債を買う以外の運用経験がないゆうちょ銀行は、地方銀行と提携して住宅ローンなどの取り扱いを計画しているが、地銀側の抵抗も強い。
 
 融資業務や保険など新たな金融業務進出の成否は、地方の郵便局の統廃合を含めたグループ全体の経営に重大な影響を与えるのは間違いない。
 
 日本郵政は、完全民営化後も地方の郵便局を維持する方針を示している。しかし民間会社が今後、より収益性の高い地域へ再配置が進む可能性は決して否定できない。
 
 金融界が富裕層への傾斜を強める中で、階層や地域にかかわりなくサービスを提供する郵政各事業は、格差対策としても貴重な存在である。
 
 その基盤となる郵便局ネットワークを維持するにはどうすればいいか。あらためて国民的議論を始めたい。


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