社説

2008年11月27日

「負の感情」と向き合う力を

 過去最多の5万2800件。この数字は昨年度、全国の国公私立の小中高校生が学校の内外で起こした暴力行為の件数である。文部科学省の調査で分かった。

 小学校が前年度比37%増の5200件、中学校も同20%増の3万6800件だった。

 生徒間暴力が同22%増の2万8300件に上っている。

 自分の感情をコントロールできず、言葉より先に手が出る、そんな傾向が強まっているという。

 対人関係能力は他者と社会で共生するための土台である。その感情が身についていない子どもの増加は社会の危機に直結する。

■心に「ピン」とこない■

 負の感情、つまり怒りや悲しみ、不安や憎しみなどは誰もが抱えている。

 暴力行為の増加はそうした感情を言葉で処理できず、そのまま他者にぶつける傾向が強まったことを示す。

 感情を抑制する力は他者とかかわる体験を通してはぐくまれる。

 幼児期に怒りなどの感情を他者にぶつけ、それを親などに受け止めてもらうことで次第に感情を抑えられるようになるという。

 道徳教育を強化しても、その土台となる共通の基盤が育っていなければ規範を説いても心に「ピン」とくるはずがない。

 少子化や地域の崩壊で、失われた子どもの対人体験の機会や場をどうつくるか。学力問題以上に取り組むべき課題である。

 いじめの問題も根っこを同じくする。

 今回の調査では、いじめ件数は前年度から2万3700件減り、10万1100件となった。しかし、依然として相当な数である。

■件数に一喜一憂せず■

 いじめは、対人関係で傷つき、抱えたストレスを手っ取り早く解消する手立ての一つだという。つまり、対人関係能力が低下するほどにいじめははびこる。

 子どもが集団で過ごす学校で、ストレスと無縁でいることは難しいだろう。ストレスを抱えたとしても、それを他の子どもに向けないで済ますことができる力をつけさせることが大切だ。

 また、学校が認知したいじめ件数の増減に一喜一憂するのはやめたい。前年に比べて減ったとしても認知できなかっただけかもしれない。今回の文科省の調査でも、アンケート、家庭訪問、個人面談など実態把握に積極的に取り組んだ学校ほど認知件数が多くなるという結果が出ている。

 「加害者を厳しく罰せよ」という声もあるが、いじめは被害者と加害者が頻繁に入れ替わることもあって特定の子どもを対象にした指導には限界がある。

 インターネットを利用したいじめのように加害者の割り出しが困難なケースも多い。

 処罰や規範教育を強化するだけでは感情やストレスを封じ込めるだけで、かえって暴力もいじめも増える結果に終わりかねない。


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