社説

2007年08月19日

心のケアできる人材の育成を

 人生では病気になったり、借金を負ったりすることもある。仕事のストレスを重く感じたり、親しい人を突然失ったりすることもあるだろう。そんな心の闇の中で衝動的に自殺をする人がいる。どうしたら救うことができるのだろうか。重大でかつ急務の課題だ。

 本県では昨年、361人が自殺した(県障害福祉課調べ)。10万人当たり31・5人は全国ワースト5位。内訳は、男女比では7対3で男性が多く、年齢別では男性が50代、女性は60歳以上が目立った。地域別では、西諸地域がほかの地域よりも自殺率が高かった。

■交通事故死者の4倍■

 “交通戦争”ともいわれた県内の交通事故死者数は昨年96人。自殺者数はその4倍近く、しかも自殺未遂者は自殺者の10倍以上いるといわれる。世界保健機関(WHO)は、「自殺は、その多くが防ぐことができる社会的な問題である」と明言。県への自殺対策提言書をまとめた県自殺対策協議会会長の石田康・宮崎大医学部教授は「1日に1人が亡くなっている計算で、抜本的な対策が必要」と訴える。

 自殺の背景には、失業・倒産、多重債務といった経済・生活問題、健康や家庭内の問題などさまざまな要因がある。まずは多重債務など経済問題は、弁護士や司法書士と相談し、解決策を探る。また自殺を図った人の多くは、うつ病など精神疾患にかかっているケースが多く、精神科医など専門家の治療を受けるのが重要だ。

 都城市で相談に当たる横山陽二医師=精神科=は「うつ病では自殺衝動がよく起きる。でもそれは短時間のようだ。そのとき家族のことなどを思って立ち止まってほしい。患者は、うつ病が治ったとき、必ず『あのとき死ななくてよかった』と話す」と語り、治療が効果的であることを強調する。

■県に専門部署設けて■

 だが提言書は、うつ病などの経験者の約7割は医療機関で治療を受けていない実態を指摘。市町村や保健所などでのうつ病相談、企業、事業所でのメンタルヘルス相談、それらの機関と専門家との連携の強化を求めている。

 さらに「かかりつけ医」、歯科医、産業医などへのうつ病などについての研修、心のケアができる人材の育成と地域での「身近な相談や語り合いの場」の整備を要望。高齢者に対する家族、地域の「見守り力」の強化や自殺者の遺族のための支援などさまざまな面での課題を提起した。県には数値目標(自殺死亡率など)を設定するなど県民総力戦で取り組むことが重要―と主張、総合的な自殺対策を実施できる専門部署の設置を求めている。

 自殺率が高いのはワーストの秋田県など東北地方が多い中で、本県がワースト5位であることをどのくらいの県民が知っているのだろうか。県内の自殺防止活動グループ「ヘルプラインいのち」の田中亮子代表は「秋田県では県の広報で生活習慣病予防と同じように自殺対策の必要性を掲載している。県民1人1人がその必要性を感じないことには自殺防止につながらない」と県民意識の高まりの大切さを訴える。

 県はネットワークの拠点となるような専門部署を設けることを検討すべきだろう。自殺を意図するサインを見逃さないためにも地域、企業、学校などで気軽に相談できる環境をつくり、専門家との連携の輪を築こう。命のともしびを一つでも消さないために。


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